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「ナマエ、…おい、起きろナマエ」
「う、……ん?」

クラウドの声が聞こえて目を開けると、すぐ目の前に嫌味なくらい整ったクラウドの顔。それに、なんだか身体が温かい。はっとして飛び起きて状況を理解した。どうやら穴に落とされた時に、クラウドの上に落ちてしまったようで。クラウドを下敷きにしてしまったことに、さっと血の気が引いた。

「クラウド!ごめん、大丈夫!?どこか怪我してない?痛いとこは!?」
「…っふ」

慌ててクラウドの上から降りて、声を掛ける。どうしよう、いや絶対に痛いよね。骨とか折れてたらどうしよう。なんて焦る私を尻目に、クラウドは何故か眉を少し下げて笑った。

「え、痛すぎて頭おかしくなった…?」
「なわけないだろ…。怪我もしてないし、痛くもない」
「そ、そっか…よかったぁ…」
「──あの男に、何もされてないよな?」
「え?…うん、何もされてない。すぐクラウドが来てくれたから…」
「……はぁ、あんたが無事でよかった」
「っクラウド?」

突然視界が揺れて、身体に感じる温かさに、クラウドに抱き締められているんだと気付く。バクバクと心臓が煩く音を立て始めて、こんなに密着している状態じゃ、クラウドにバレてしまうんじゃないかと気が気じゃない。

「怖かったよな。…悪い」
「……っ」

耳元で囁かれる、切なさを含んだ声に胸が締め付けられる。どうしてクラウドがそんな声出すの。その声から、本当に私を心配してくれたことが伝わって、嬉しさや切なさで胸がいっぱいになる。温かい腕の中で、心の奥に閉じ込めていた先ほどの恐怖や不安が薄れていくのを感じる。それと同時に安心して、不覚にも緩みかけた涙腺をぐっと堪えた。

「…クラウド、ありがと。助けてくれて、嬉しかった」
「ああ…、もうあんな目には合わせない。俺があんたを守る」
「…あはは。大丈夫、クラウドには敵わないけど、私強いの知ってるでしょ?」
「どうだろうな。…でも俺が、そうしたいんだ」

耳元で囁かれる、いつもより少し低めのクラウドの声。当たる息が擽ったくて、煩い心臓は全然治まってくれない。守るなんて言われて、嬉しくないわけがない。ふと、リーフハウスでのエアリスとの会話が頭をよぎって、どくんと心臓が大きな音を立てた。ああ、気付いてしまった。何かがすとんと胸に落ちる。そっか。私は、クラウドのことが──。

「ふたりとも、私たちのこと、気付いてる?」
「──っえ!?」

突然聞こえてきたティファの声に、慌ててクラウドの胸板を両手で押して離れる。クラウドが少しだけ不満げな顔をしたように見えたのは、気のせいだと思うけど。ティファとエアリスが、ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべてこっちを見ていて、ぼん、と顔に一気に熱が集まった。やばい、完全に変な世界に入り込んでた。エアリスどころか、ティファにまでこんな所を見られるなんて、と内心少し焦る。だって、ティファはクラウドのこと…。ちらりとティファの顔を窺うと、思いの外優しい表情をしていて、それに面食らう。ティファの口の動きで、"後で詳しく"と言っているのがわかって、私は苦笑しながらそれに頷いた。

「ここ、…どこ?」
「うーん、下水道、みたいだね」
「うん、ひどい匂い」

エアリスが言った通り、確かに下水道なのか辺りには濁った水が流れている。それと、ティファが眉を顰めるのもわかるくらい、ひどい匂いが充満している。

「…何か、聞こえないか」
「え?」

クラウドが少し声を潜めて言った言葉に、そこにいる全員で耳を澄ます。微かに聞こえる鎖を引き摺るような音と、人間ではない足音。それは確実に私たちへ近づいてきていて、獣の唸り声とともに何かが背後から飛び出してきた。

「っな、にこれ!?」

出てきたのは、発光した角と長い舌を持つ巨獣。まさか、コルネオは地下でこんなものを飼っていたとは。だからあれだけ強気に出られたってことか、と納得する。

「いけるか」

クラウドの声に、みんな頷いてそれぞれ武器を構える。私もダガーを引き抜いて、巨獣に向かいあった──。
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