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やっとクスリが抜けてきたのか、身体に感覚が戻ってきた。エアリスに連れられて一旦廊下まで出て、手伝ってもらいながら着物を脱ぐ。いつもの服に着替えて、やっと気持ちも落ち着いた。

「ナマエ…だいじょうぶ?」
「うん、ありがと…エアリス」

心配そうに私を見つめるエアリスに笑ってみせて、震えも治まった。正直、怖かった。動かない身体で、帯を取られ、あともう少しで全て脱がされていたかもしれないし、あの手に触られたかもしれない。クラウドが来てくれなかったら、と考えて、悪寒が走る。自分の身は自分で守れると、ずっと思い込んでいた。でも、今回で自分の無力さを思い知った。みんなに迷惑を、掛けてしまった。それに、クラウドの手を、あんな奴のために汚させるところだった──。

「エアリス…ごめん…」
「…だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」

エアリスが微笑んで、ぎゅっと優しく私を包み込んでくれる。その細い腕の中で、私は大きく安堵の溜息を零した。もう、大丈夫。やるべきことが、まだ残ってる。

「エアリス、行こう」
「うん」

立ち上がって、元いた部屋に戻ると、クラウドが少し眉を寄せて見た事がないくらい不安の色を浮かべた瞳で私を見つめた。それに頷いて見せて、大きく息を吸い込んでから、私はコルネオに向き合った。

「話、聞かせて。何を企んでるの?」
「…なんのことだ」

あんなことがあったのに、コルネオはあくまでもしらばっくれる気らしい。ティファが一歩前に出て、さらに続ける。

「七番街のスラムで手下に何を探らせたの?しらばっくれても無駄。言わないと──」
「っひ…」
「切り落とすぞ」
「やっ、やめてくれ!ちゃんと話す、なんでも話す!」

剣の柄に手をかけたクラウドに、先ほどの光景が蘇ったのか後ずさるコルネオ。

「…頼まれて、片腕が銃の男のねぐら探った」
「誰の依頼?」
「ほひ〜!しゃべったら殺される!」
「言いなさい!言わないと──」
「ねじりきっちゃおうか」
「ひいぃ!」

エアリスが言った言葉に、コルネオは悲鳴を漏らした。多分、依頼者はタークスか、もしくは神羅の上層部。ただ、それだけじゃ情報が少ない。この男の口から名前を吐かせないと。

「……神羅のハイデッカーだ。治安維持部門統括ハイデッカー!」
「!?ハイデッカー…」

コルネオの口から飛び出した名前に目を見開く。ハイデッカーが首謀者なら、タークスが動いていたのも納得が行く。

「神羅の目的は?」
「そっ、それだけは勘弁してくれ!」
「言ったほうがいいんじゃないかなぁ。言わないと──」
「すり潰すよ」

今度はエアリスが煽るように言って、それに続けてティファが片足をベッドに乗せた。本当にすり潰すような動きをして見せると、それを見たコルネオは大量の汗を流しながらも、何故か表情は崩さなかった。それどころか、笑ってる。

「…ねえちゃん、本気だな。しかたねえから教えてやるよ。神羅は魔晄炉を爆破したアバランチとかいう一味を、アジトもろとも潰すつもりなのさ。文字どおり、潰しちまうんだ。…プレートを支える柱を壊してよ」
「どういうこと!?」
「柱を、壊す…?」
「わかんねぇか?プレートがヒュー、…ドガガガ、だ!」

その話に、思わずティファと顔を見合わせる。だってまさか、神羅がそこまでする?そんなことをしたら、スラムの住人が大勢犠牲になるのに。それでも、タークスが動いていたという事実がある以上、可能性はゼロじゃないのかもしれない。

「…それと、なんでも七番街を狙う理由はアバランチのアジトだけじゃねぇみてぇだ。詳しくは聞かされてねぇが、ある女が関わってるらしい」
「ある女?」

訝しげにコルネオに聞き返したティファを他所に、私はまさかと自分の手を見つめた。蜜蜂の館で、レノに言われた言葉。私も無関係じゃない、と。七番街は私が6年間身を隠していた場所で、そこを潰すメリットが神羅にはある?
──わからない。何もわからない。でも嫌な予感がぐるぐると頭を駆け回って、どうしようもない。

「ナマエ、大丈夫だ」
「…クラウド」

いつの間にかクラウドが私のすぐ後ろに居て、肩にそっと手を置いた。革手袋から伝わるはずのない体温を感じて、胸が少し温かくなる。私はクラウドに頷いて、気持ちを切り替えるために小さく息を吐き出した。

「ティファ、クラウド、ナマエ。行こう!」
「ちょっと待った!」

エアリスの声に、とにかく七番街へ一刻も早く向かうため踵を返した時、コルネオが私たちを引き止めた。

「だまれ」
「すぐ終わるから聞いてくれ。俺たちみたいな悪党が、こうやってべらべらと真相を喋るのはどんな時でしょ〜うか?」

突然訳の分からないことを言い出したコルネオに、それぞれ眉を寄せる。そりゃひとつしかないでしょ、とは思いつつも答えてやるのも馬鹿馬鹿しい。

「興味ない」

クラウドの台詞を真似て、一言でそう返したら、エアリスとティファが小さく吹き出した。

「ざーんねーん!正解は〜………教えなーい」
「──っわ!?」
「きゃあっ!」

ニヤニヤと不敵な笑みを貼り付けたコルネオが、大袈裟な溜めの後に横にあった趣味の悪い装飾のようなものに手を掛け、それを倒した。その瞬間に私たちの足元の床が抜け、身体が嫌な浮遊感を感じた次には、悲鳴とともに穴の中に落とされた──。
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