04
「え、ナマエ!?」
「っな、おい!?」
自分の意志とは関係なく、とめどなく溢れる大粒の涙。ティファの驚愕した声と、クラウドと呼ばれた隣の人が目を見開く表情。違う、違う…そんなまさか。
「っあ、あれ……?」
「どうしたの!?」
「あんた、大丈夫か…?」
悲しいわけじゃない。痛いわけじゃない。でも、涙が止まらない。この人は、ザックスじゃ、ないのに。ふと視線を下ろした先に見えたものは──。
「っ!ごめん、…!!」
「ちょっと、ナマエ!」
それだけ言うと、ティファが引き止める声も無視して、私はなりふり構わずセブンスヘブンを飛び出した。
「はぁっ、はぁ…!」
とうとう私はどこかおかしくなったんだろうか。
あの人と目が合った瞬間、確かにザックスの面影を見た。あの人はザックスじゃない。見た目も全く違う、ただ服がソルジャーのもので、でも──。
「じゃあ、あのバスターソードは…?」
ちらりと視線を落としたときに目に付いた、カウンターに立てかけられた、見覚えのありすぎる大剣。あの剣は、ザックスが大切にしていたもので、この世に2つとない貰い物のはずなのに。
「ナマエ!」
「……ティファ…」
聞こえてきた声に振り返ると、そこには息を切らせたティファがいた。追いかけてきてくれたんだ。そりゃそうだよね、突然号泣して飛び出すんだもん。私がティファでも同じこと、してたと思う。
「はぁっ、どうしたの…?」
「ティファ、あの人、ソルジャーなの?」
「……え?」
「…?ティファが、さっきそう言ったよね?」
ソルジャーかと聞いた瞬間に、一瞬だけティファの表情が曇ったように見えて首を傾げる。
「あ、うん、…そう。元ソルジャーで、今はなんでも屋をやってるの」
「…そっ、か。ごめん、探してた人に、少し似てたからびっくりしちゃって」
「それって、前に話してくれた、昔ナマエを助けてくれたっていう人?」
「うん、そう。…でも勘違いだった」
ティファにも神羅との関係やザックスのことは話していないし、話して余計に波風を立てる必要もなかった。昔、危ない所を助けてくれた人を探している、とだけ話していた。剣のことだって、もしかしたら同じものは無いと思っていたものがただ他にも存在していただけで、あの人が持っていた剣はザックスとは何の関係もない可能性だってある。
「ねぇ、ティファ?…あの人が持ってた剣なんだけど──」
「まって!!」
「…え?」
ほんの軽い気持ちで、というよりはむしろそうであって欲しいという願望を込めて口に出した言葉は、ティファの大きな声で遮られた。驚いてティファの顔を見る。
「…ナマエ、ごめん。その話、今は誰にもしないで。いつか、ちゃんと話すから」
「ティファ……?うん…わかった」
あまりにも真剣で、どこか不安に揺れるティファの表情に私はそれ以上何も言えなくなってしまった。ただ、ティファは、何かを知ってるのかもしれない。
「さ、冷えるから、中戻ろう?」
「そう、だね」
確信にも似た気持ちに、ぎゅっと拳を握りしめる。ずっと探していたザックスの手掛かり。それがすぐそこにあるような気がして、私は星が輝く空を見上げた。
ティファやあの人の傍にいれば、ザックスのことがわかるかもしれない。血の繋がらない唯一の家族で、大切な人。
何をするべきかなんて、もう決まっていた───。