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「こんにちは、ティファ」
「こんにちは…?」
「わたし、エアリス。ナマエとクラウドの友達。一緒に、ティファを助けに来たの」
「…ありがとう」
少し驚いた顔をしたティファも、エアリスが悪い人には見えなかったのか少し微笑んだ。よかった、これでみんな揃ってここを出られる。
「話は後だ、今すぐ出るぞ」
「だめ、まだ目的を果たしてない!」
「ティファ、目的って?」
そういえばティファが、コルネオの元に来ている理由を聞いていない。おかしなオーディションにまで出て、ティファは何をしようとしているのか。
「あのね、クラウドたちと別れたあと、七番街に戻ったらあやしい男たちがいて…。気になって調べたら、」
「コルネオの手先だったわけか」
「…うん、アバランチのこと探ってたみたい。でもそれ以上は掴めなくて」
「コルネオに直接聞きたい、ってことね。うん、わかった」
「っおい、無茶だ!」
ティファが言おうとしていたことが理解できて、私はそれに続けた。ただクラウドは納得が出来ないようで、眉を寄せて反論する。
「オーディションに通りさえすれば、コルネオとふたりきりになれるからいけると思ったんだけど…候補者は4人いるんだって」
「それなら、心配ないよ?残りの3人って、わたしたちだもん」
「そういうこと!だから、誰が選ばれても安心」
悪戯っ子のように笑ってみせたエアリスに私も乗って、ティファを安心させるように笑う。さすがにティファは目を丸くして驚いているけど。
「みんな仲間なら、問題ないでしょ?」
「…それは、そうだけど…。でもエアリス、あなたを巻き込むわけにはいかない」
「そういう遠慮は、恐らく無駄だ」
「うん、止めてもエアリスは聞かないと思うよ」
ね、と隣のクラウドを見上げたら、溜息をつきながら頷いた。現に、こんなところまでエアリスが自分の意思で来てるんだ。止めて聞くような人だったら、そもそもここにはいない、と内心苦笑する。
「ふたりとも、わたしのこと、わかってきた」
「あはは」
こんな状況でも明るいエアリスに、助けられてるのは間違いない。嬉しそうにそう言ったエアリスに、私もつられて笑った。
それからしばらく気味の悪い地下室のような場所で待っていると、コルネオの手下がオーディション開始を告げに来た。私たちは覚悟を決めて頷き合い、いよいよオーディションが行われるコルネオの元へ向かった。
「…うっわぁ」
思わず小声で呟く。通された部屋で横一列に並ばされた私たちは、闘技場でMCをしていた1人の掛け声で部屋に入ってきたコルネオと対面した。それは小太りとかいうレベルじゃないお肉ぶよぶよのおじさんで。頭には趣味の悪いタトゥーも入っているし、生理的に受け付けない人種だな、と心の中で悪態をつく。しかも鼻息荒いし、ほひーほひーと変な口癖のようなものも煩いし気持ち悪い。
「いいの〜、いいの〜!」
目の前に来たコルネオは、私たちひとりひとりを物色するように下から上まで気色の悪い視線を這わせる。顔が引き攣りそうになりながらも、最大限の笑顔を浮かべておく。
「どのおなごにしようかな〜!ほひ〜、ほひ〜!おまえにしようかな〜?それとも、おまえかな〜?…ん?」
クラウドの前に立ったコルネオが、少し首を傾げてクラウドの両肩を掴む。え、やばい、まさかバレた?内心ヒヤヒヤしながらその様子を横目で窺うけれど、なんとかバレずには済んだようでクラウドから離れていく。そのままコルネオはひとり頷きながら、中央へと戻る。
「…ほひ〜!決めたき〜めた!今日のお嫁ちゃんは〜………このお人形ちゃんのようなおなごだ!」
くるり、とその場で無駄に回転してみせたコルネオが指をさしたのは、私だった。うわ最悪、と思いつつも、クラウドはともかくティファやエアリスに危険が及ばず済むことに安堵する。
「…お選び頂き光栄です。コルネオ様」
意識して微笑みを浮かべて、首を傾けてコルネオに告げる。ニヤニヤと下品に顔を緩ませるコルネオに嫌悪感はあるが、それでも目的のために利用させてもらおう。せいぜい、いい話を聞かせてよね、コルネオ様。肩を抱かれながら、奥の部屋へと誘導される。横目でみたクラウドは、すごく怖い顔をしていて、拳を震わせていた。それに、口の動きだけで大丈夫、と伝えて、コルネオに従ってその部屋へと足を踏み入れた。