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濃紺に金糸で楓が散りばめられた着物に、前結びの桜があしらわれた金帯。それは灯を反射して輝いているようにも見える。首元から肩までを露出させて、足元も肌蹴た裾から際どい位置まで細長い脚が見えている。髪は緩く巻かれた襟足だけを残して、その他は複雑に結われているようで、金の簪が輝いていた。いつもとはまるで違う、色香が漂うナマエに、頭が混乱してただ息を呑む。

「クラウド?」
「───ナマエ、だよな?」
「え、うん」

マムに仕草まで仕込まれたんだろうか。伏し目がちに応えるナマエの、紅い唇が動く度に血が沸騰するような妙な感覚を覚える。むき出しの肌を目の当たりにして、心臓がドクドクと嫌に煩い。咄嗟に、誰にも見せたくないと思った。辺りでジロジロと下品な視線を浴びせる男達にも腸が煮えくり返りそうで、必死にそれを抑える。どす黒い感情と、ナマエを自分だけのモノにしたいという獣じみた欲求。こんな感情を、俺は知らない。

「ね、クラウド。ナマエ、すっごく綺麗でしょ?」
「……っ、あぁ、…驚いた」
「え、それだけ?」

眉を下げて呆れたような表情さえ煽情的に見えるなんてどうかしてる。細い肩を抱き寄せて、首筋に噛み付いてやりたいなんて言ったら、こいつは顔を真っ赤にして怒るんだろうか。なんて、これじゃナマエの良いように煽られてるようで腹が立つ気もする。そんな俺を見透かしたように、横で無駄にいい笑顔を見せるエアリスに気まずさを感じつつ、俺はナマエの腕を自分の方へ引き寄せた。

「っえ!」
「…誰にも見せたくないくらいにはな」
「〜〜〜〜っ!!?」

耳元に顔を寄せて、意識して低く囁いてやると、案の定ナマエは耳を抑えて声も出さずに真っ赤になった。その反応に満足して口角を上げて見下ろすと、赤い顔のままで俺を睨み付けるナマエ。そういう顔が俺だけのモノならいいんだけどな、なんてまた柄にもないことを思ってしまって、自嘲するように溜息を吐き出した。ああ、嫌な予感がしてならない。こんなナマエを、コルネオの前に出したらどうなるか。もしナマエに何かあったら──、俺はそいつを殺すかもしれない。
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クラウドの息がかかった耳が燃えるように熱い。なんでなんでなんで。まさかさっき手揉み屋で悪戯したこと、根に持ってる?でも、誰にも見せたくないって…言ったよね…?それって、どういう意味?私を意地悪い顔で見下ろして笑うクラウドの瞳には、微かに熱が篭っているように見えて、心臓が口から飛び出そうになる。この着物、気に入ってくれたってことかな。だったら、嬉しいかもしれない。良かったね、なんて笑いながら小声で言ったエアリスに、大人しく頷いておいた。

「ナマエ、エアリス。ジョニーの伝言は聞かなかったのか」
「待ってろってやつ?聞いたけど、心配だもん」
「うん、クラウドが勝手に暴れてないか心配」
「……それは、ない」

ちょっと目を逸らしてたっぷりの間のあとにそう言ったクラウドに、私とエアリスは訝しげな視線を浴びせる。ああ、これ暴れかけたな…。

「ここは思っていたよりも危険なところらしい。オーディションで何をさせられるのかもわからない。やはりふたりで行かせるわけには…」
「ふたり?そんなつもり、ないよ」
「そうそう。戦力は多いに越したことないからね〜」

ねー、なんてエアリスとニヤニヤ笑い合う。それを見たクラウドの怪訝な表情は深まる一方で。まぁまぁ、行ったらわかるから。

「ほら、こっちこっち!」
「どこへ行くつもりだ…」

駆け出したエアリスに続いて、訳が分からないといった顔でクラウドも渋々歩き出す。それにしても、着物って歩きづらいな…。裾を捲り上げて走ろうとしたら、何でかクラウドがめちゃめちゃ怖い顔で睨んだから、大人しく早足で目的地へ向かうことにした。
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