02
「ナマエちゃん!おはよう、早いね」
「ナマエおねえちゃん、遊んでよー!」
「今日も別嬪さんだね、ナマエちゃーん」
セブンスヘブンへの道中、いつものようにすれ違う人達に声を掛けてもらう。6年前まで余所者だった私でも、いまでは毎日こうして皆が声を掛けてくれるようになった。それが、孤独だった私には何よりも嬉しいことで。それぞれに一言ずつ返事をしながらなんとか目的地に辿り着き、私はセブンスヘブンの扉を開けた。
「おはようございまーす」
「あ、ナマエ!おはよう」
「あれ?ティファ、だけ?」
扉を開けた先にはいつもより静まり返った店内と、カウンターの中にひとりでいるティファの姿。ここセブンスヘブンは、表向きはバーだけど、実のところ反神羅組織アバランチのアジトでもあるから、いつもはもっと賑やかなのに。
「うん、今日は私はお留守番。皆は作戦決行中」
「作戦って、もしかして魔晄炉の?」
「正解。これは秘密、ね?」
別に、私はそのアバランチの一員というわけでもない。ティファがここ七番街スラムに来た頃、歳が近いということもあって懇意にさせてもらっていたことから、アバランチという組織についても他言無用という条件で聞いたことがあった。お手伝いという名目で色々と呼んでもらえるようになって、戦闘の腕を買ってもらえたのか、何度かアバランチに勧誘されたりもした。私をこんな身体にした神羅に恨みがないと言えば嘘になるけれど。もうあの会社とは関わりたくない、それが正直な気持ちだったから、そのお誘いは断った経緯があった。
「ティファたち、私に色々情報教えてくれるけど、私が悪い奴だったらどうするの?アバランチの情報、高値で神羅に横流しとかしてるかもよ?」
なんて、する訳が一切ないんだけどね。少しの意地悪のつもりで、ティファに訊いてみる。我ながら今、あくどい顔してるんだろうな、なんて思いながら。
「その時は、私のするどーい蹴りをお見舞いするだけ」
「え、こわ、それは勘弁して」
「ふふ、なーんてね。ナマエがそんなことする人じゃないって、わかってるもの」
「…まあね。神羅を嫌ってるのは、一緒だから」
そう、神羅は大嫌いだ。ザックスのことも、もしかしたら神羅が何か隠しているんじゃないかって、ずっと思ってる。でもそれを確かめる勇気なんて、私にはない。
「…ナマエ?大丈夫?」
「え、あ…うん。平気、ごめんね」
ぼーっと考え事をしてしまっていた私を不思議に思ったのか、ティファが顔を覗き込んで、慌ててそう返事をした。今日、やっぱりだめかも。あの夢のせいで、ずっとモヤモヤしてる。
「ううん。そういえば、今日はどうしたの?」
「あ、そうだった。いつものフィルター、もらいたくて」
「フィルターね、えぇっと…あ、ごめん!今在庫切らしてるんだった…。ジェシーが戻ったら伝えておくから、面倒かもしれないけど夜また来てもらってもいい?」
「もちろん、じゃあまた後で来るね」
在庫がないなら仕方ないし、急いでいる訳でもないから、とカウンター席から立ち上がる。
「あ、それと、その時に紹介したい人がいるんだ」
「ん?なに、改まって。もしかして、ティファの恋人?」
「えっ!?ち、違う違う、同郷のね、友人」
「…ふーん、その慌てよう、怪しい」
珍しくどもって慌てて否定するティファに、口角が上がる。ティファさん、顔、赤いんですけど?
「もう、ナマエ!本当にそんなんじゃないから!じゃあ、また夜にね」
「はいはーい、楽しみにしておくね。それじゃあまた」
これ以上揶揄うのも可哀想な気がして、ティファに見送られて私はセブンスヘブンを後にした。