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噂をすればなんとやら。突然降り掛かってきた火の粉に、ここに来てからもう何度目かになる溜息をついた。

「ナマエは、わたしの友達。それだけ」
「…うん、通りすがりのエアリスの友達」

助け舟を出してくれたエアリスに乗っかって、そのまま男に返事をする。

「へぇ?まぁいいか、と。…んで、クラスは?」
「ファースト」
「…っく!ははっ、いくらなんでも、ファーストっておまえよぉ」

挑発に乗って、バスターソードを構えて走り出すクラウドを慌てて止める。

「っおい!」
「クラウド、相手することない。やめよ」

クラウドの腕を両手で掴んで、そう訴える。本当に、これ以上関わらない方がいい。

「…おまえ、その目の色───」

訝しげに私の顔を見つめてそう呟いた男に、最悪だ、と心の中で吐き捨てる。クラウドを止めようとして咄嗟に前にでてしまったことを後悔する。さっきの位置なら、男と距離があったし日も当たらなくて薄暗かったのに。

「なるほどな。おまえが、"レプリカ"か」

ニヤリと上げられた口角に、悪寒が走る。何でよりによって、クラウドもエアリスもいる場所で、今、その名で呼ぶの。頭に血が登っていくのがわかる。

「目的のモンが、タイミングよくここに集まってるってわけだ。…最高だぞ、と」
「…なんの話だ」

その男の意味深な発言に、意味がわからないとクラウドが問う。

「はっ、おまえ何も知らねぇのか。その女は──」
「っナマエ!?」

勝手にそれ以上話して欲しくなかった。言い終わる前に、その男に向かってダガーを抜きながら飛び込む。ダガーと警棒が重なって、一瞬火花が散った。

「…おいおい、まだ話し中だぞ、と」
「これ、ツォンからの命令?」
「あ?ここに来たのは別のお仕事。おまえに関しちゃ、ただの偶然だぞ、と!」
「───っ!!」

追いつけなかった。この男のスピードに。弾き飛ばされてカラン、と音をたてて床に転がるダガー。おまけに背後から腕を回されて、身動きが取れない。

「それにしてもこんな上玉だったとはな。そりゃ主任もご執心なわけだ、と。なァ、"レプリカ"」

そう耳元で妖しく囁いて、突如解放される身体。背後に立ったままの男に、生身のまま向き直る。そして、秘色の瞳を見つめて、ツォンに言った言葉と同じそれを口に出した。

「私は神羅には戻らない」
「…へぇ。おまえ、名前は?」

突然瞳がギラリと色を変えた気がして、また悪寒が走る。本当に、苦手だ、この男。くい、と左手で顎を掬われ、近くなる顔。あぁ、不快だ。

「神羅の犬に教える名前なんて、残念だけど持ってないの」
「俺が、おまえに興味があるって言ったら?」
「同じこと言わせないで」

最大限のいい笑顔、というものを貼り付けてそう答える。ただ、次に告げられた男の言葉に、私は言葉を失うことになる。

「ふはっ、つれねぇなァ。おまえを助けたソルジャーのこと、知りたくねぇのかな、と」
「なっ──」

思わず息を呑んだ。ザックスのことを、この男は知っている?もちろんタークスとソルジャーは関わりがあるから知っていても可笑しくはないけれど、この男が言った意味はきっとそうじゃない。ザックスがどうなったのか、それを知っている?多分、至近距離にいる男には、私があからさまに狼狽えてる姿がまる見えなんだろう。心底愉しそうに歪められる口に、嫌悪感が募る。ただ咄嗟に、助けてと心の中で呟いた時だった。
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