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「ごめんエアリス…お花、ちょっと潰れちゃった…」
「気にしないで!お花、結構強いし、ここ特別な場所だから」
気にしないで、とは言っても、やっぱり申し訳ないのには変わりない。しかもスラムに咲く花なんて、物凄く珍しいから。
「ね、クラウド。これ、落としたよ」
「ああ」
そう言ってエアリスはクラウドにマテリアを差し出した。ぶっきらぼうに答えてそれを受け取るクラウドに私は苦笑する。相変わらず愛想なしだな、なんて。
「わたしも持ってるんだ」
「マテリアなんて珍しくもなんともない」
「でも、わたしのは特別。だって、なんの役にも立たないの」
「役に立たないマテリア?」
「使い方を知らないだけだろ?」
「そうかもね。でも、それでもいいの。身につけてると安心できるし、お母さんが残してくれた」
そう言って振り返って笑うエアリス。でもなんだか、その顔は笑ってるのにどこか寂しそうに見えて、私は少し目を逸らした。
「ね、せっかくだから、少しお話、する?」
「…うん、じゃあ話しながらお花、直そ」
「ありがとう、ナマエ」
「……はぁ」
クラウドが大きな溜息を吐き出したのを横目に、私は花畑にしゃがみ込んだ。
倒れている花に手を伸ばそうとした時、タイミングを見計らったかのように突然教会の扉が音を立てて開いた。今度はなに、少しくらいゆっくりさせてよ、と悪態をつきながら入口を見る。複数の神羅兵と、偉そうに先頭を闊歩してきた男の姿に、クラウド以上にでっかい溜息が零れた。
「邪魔するぞ、と」
警棒を片手に、ずかずかと入ってくる男。初めて見る顔だけど、すぐにわかった。燃えるような赤髪に、秘色の瞳と、やけに気崩した黒いスーツ。おまけに神羅兵を引き連れてるんだから嫌でもわかる。あぁ、この男もタークスだ。
「おまえ、なに?」
その言葉はクラウドに向けられていた。私は立ち上がって、あまり目立たない位置に移動する。もしもツォンからタークス全体にあの指示が出されていたら、確実に面倒なことになる。
「この人、わたしのボディガード。ソルジャーなの」
「──…?」
「ソルジャー?」
「"元"ソルジャーだ」
「あらま。魔晄の目」
値踏みするようにクラウドをじっと眺めて、その男は口角をあげた。
「ボディガードも仕事のうちでしょ?ね、なんでも屋さん」
「……ん?」
「わたしのカン、当たるの。ボディガード、お願い」
「…あぁいいだろう、でも安くはない」
「じゃあね、デート1回!」
「は?」
そう言って悪戯っぽく笑うエアリスを見て、クラウドにとっては随分高い報酬だな、なんてひとり笑う。笑ったのがバレたのか、振り向いたクラウドに睨まれた気がしたけど。それにしてもあいつ、飄々としてるけど腹の底が見えない感じがして、できればこのまま関わりたくない。なんて思った時だった。
「で?そこでコソコソしてるおまえは、なに?」