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「…これなんの拷問?」
「みんな、ごくろうさま。付き合ってくれてありがとう。それから、明日の作戦終了までバレットとティファには内緒でお願い」

綺麗に私の声をスルーしたジェシーが話し出したけど、ごめん、内容が頭に入ってこない。

「おーし、飛ぶぞ!」
「わくわく!」
「まって、ねぇまって」
「クラウド、ナマエを送ってやってくれ」
「ああ」
「ねぇ…聞いて…」

どうしてみんな私を無視するの。聞こえてないの?もしかしてあまりの恐怖で、私声に出せてないの?

「じゃ、行くよ!」
「うぅ、怖いっス…」
「おっしゃ!」

ビックスとジェシー、それと可哀想だけどひとりのウェッジが飛び出すのが視界の端に見える。え、あんなスピード出る?

「クラウド…クラウドまって」
「だめだ」
「おねがい、まってえぇ」
「口でも閉じてろ」

私の言葉も虚しく、腹部に回されたクラウドの腕にぐっと力が入れられたと思った瞬間。ぐらりと揺れる視界と、独特の浮遊感。

「ひっ、────!」

あまりの怖さに、言葉なんて出なかった。猛スピードで落ちる身体と、風の抵抗。強く目を瞑った真っ暗な中で、任務頑張ったのに、こんな仕打ちってある?なんて不幸を嘆いてたら、がくんと訪れた衝撃。そして唐突にゆっくりになる降下スピード。

「おい、目開けてみろ」
「…う、?」

クラウドの声が耳元で聞こえて、恐る恐る目を開ける。…あ。

「すごい──」

眼の前に広がる、スラムの夜景。それまでの恐怖なんてどっかに飛んで行って、月並みだけど、綺麗だと素直に思った。この灯の分だけ、人がいる。そう思ったら、アバランチが掲げている思想も、あながち間違いじゃないのかもしれない。

「クラウド…」
「ん?」
「ありがと」
「…ああ」

もしクラウドに出会っていなかったら、これを見ることも無かったんだと思う。ただなんとなく日々を浪費するだけのつまらない日常。でも、クラウドと出会って、ザックスを思い出して、5年前から止まっていた歯車が動き出した。
私が呟いた言葉の意味が、クラウドに伝わったのかはわからない。それでもクラウドは何も言わずに、ただ頷いてくれた。


「送ってくれてありがと」
「いや、付き合わせて悪かった」
「ううん、行ってよかった」
「…そうか」

なんとか無事スラムに戻って来れて、クラウドは私を家まで送ってくれた。勘違いじゃなければ、今日1日でクラウドとの距離はずっと縮まったような気がする。目の前に立つ、相変わらず無表情なくせに悔しい程整った顔を見つめる。

「…なんだ」
「クラウドって、格好良いよね」
「──っは?」

じっと魔晄の瞳を見つめて、思ったことを素直に言ってみる。これは、仕返しだ。プレートに行く前に、私だけ無駄にドキドキさせられた仕返し。案の定目を見開いて眉間に皺を寄せたクラウドの反応に満足して、にっと笑ってみせる。

「おやすみ、クラウド」
「……はぁ。…早く寝ろ」

盛大な溜息をついたクラウドに笑いながら手を振って、扉を開けて部屋の中に入る。扉が締まる寸前に、おやすみと後ろから存外優しい声が聞こえて、うん、とだけ返した。
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