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「…クラウド、変なのに好かれちゃったね」
「はぁ……勘弁してくれ」
「約束しただろう?また勝負をしよう、と。キミたちが点火したんだ。私のエンジンは今、駆け出す興奮に激しく震えている!」
もう何を言ってるのか意味が分からない。バイクを降りて、抜刀した剣先を私達に向けるローチェに、クラウドもバスターソードを構える。え、戦うの?やだな…。
「バイクを降りるのは何年ぶりかな。だが私のスピードは───」
「っ!」
一瞬だった。金属がぶつかる音と、散る火花。
「どこであろうと、変わらない!」
口だけじゃないんだ、と口角が上がる。確かに早いけど、クラウドに太刀筋を読まれてるようじゃまだまだかな。傍に立つクラウドの目を見て、アイコンタクト。どうやら通じたらしく、クラウドが頷くのを見て、左脚でとん、と地面を蹴った。
ローチェの背後に素早くまわり、ダガーを振り翳す。案の定ローチェは振り返って、今度は私のダガーとローチェの剣が触れた。
「おっと!…ひゅぅ!お嬢さん、やるじゃないか」
「ありがとう、でも──」
「どこを見てる」
「っな!?…うぐ、っ!」
ローチェが私に気を奪われている隙に、クラウドがその後ろからバスターソードを振り抜いた。
あーあ、余所見してるから。膝をついて崩れるローチェに、私も一発殴りを入れてやろうかと思って、さすがに思いとどまる。
「満足か?」
「…楽しい時間はあっという間だね。まだまだ目指せる高みがありそうだ」
ローチェがそう言い終わった時。突然警報が鳴り響き、シャッターが開き広場に雪崩込んでくる大勢の兵士や機械兵器。
「嘘でしょ…さすがにもう疲れたよ…」
「おいおい、やりすぎだろこりゃ…」
近付いてきたビックスが眉を寄せて呟く。確かにこれは本格的にやばいかも、と思った瞬間に、辺りに響き渡るバイクのマフラー音。それから、次々と薙ぎ倒される機械兵器。
「え」
何考えてるの、この人。あろうことか、それをやったのはローチェで。ソルジャーにとっては雇い主である神羅の兵器を、躊躇いもなく壊した。
「私たちは必ずまた会う。その時まで生きていてくれよ、マイフレンド!」
それだけ言い残して、ローチェは高らかに笑いながらバイクで走り去って行った。訳が分からなすぎて頭痛がしてきた。
「っ、ナマエ!」
呆然としてたところで突然呼ばれた名前。はっとした時に聞こえてきた銃声と、強く引かれた二の腕。気付くと私はクラウドに抱き寄せられていて。乱射される銃弾をバスターソードを盾にして躱すクラウド。それに驚く暇もなく、機械兵器から発射された鎖に、私達を庇うようにウェッジが捕まった。
「ウェッジ!!」
抱き寄せられたまま咄嗟に伸ばした手は、空を切った。
「離して、クラウド!」
「っうぅ、みんな、今のうちに…!」
「…くそっ、クラウド、ナマエ!来い!」
ビックスの声で、一瞬躊躇うようにしたクラウドも私を引っ張って走り出す。そんな、ウェッジを置いていけるわけない。振りほどこうとしても強い力で掴まれた腕はびくともしなくて。
そんな時、突然後方から爆発音が響いた。弾かれたように振り向くと、ウェッジを捕らえていた機械兵器が燃え、解かれた鎖と倒れ込むウェッジの姿。
「武器を下ろせ!敵じゃない!」
続いて聞こえてきたそんな声と、複数の足音。目立つオレンジの服に身を包んだ謎の兵士達が、倒れるウェッジを抱え起こした。
「とにかく、走れ!」
その光景を見たビックスがそう叫んで、再びクラウドに腕を引かれ、その場を離れるしかなかった。
広場を出たところで門がゆっくりと閉じられる。ウェッジは、と訊こうとして、ビックスの顔を覗き込む。
「ウェッジは大丈夫だ。今はクラウドとナマエが見つかる方が厄介だ」
「なんだったんだ、あれは」
「"先客"……あれも一応アバランチだ」
「…あれが、本家?」
「あぁ。味方じゃねぇが、ウェッジに危害を加えることはないだろう」
その言葉に、ほっと安堵する。丁度、空に二度目の照明弾が上がる。良かった、ジェシーも無事だった。
「よし、作戦終了だ。一先ず空き地に戻るぞ!」
ビックスの言葉にクラウドと頷いて、私達は来た道を引き返した。