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「…ナマエ」
「うん?」

ハイウェイを少し走ったところで、クラウドが少しだけ私に顔を向けて名前を呼んだ。何かと思って続きを待つけれど、どこか言い淀むようにするクラウドに首を傾げる。

「……俺の後ろ、もう嫌がらないんだな」
「え?」
「プレートの上に行ったろ、バイクで」

小さく呟かれた言葉に目を丸くする。それって、ジェシーたちとのツーリング、だよね…。そう思って、ああ、と合点がいった。確かにあの時は気まずさもあって私はビックスの後ろに飛び乗ったんだっけ。あの広い背中を思い出して、少しだけ悲しみが胸の中に広がった。

「…そんなことも、あったね」
「機嫌が悪かったのかと言われたが、当たってたかもな」
「へ?」
「正直、あんたが他の男に触れるのはいい気がしなかった」
「…っえ」

突然そんなことを言うものだから、目を見開いて固まってしまった。どうしたんだろう、クラウド。普段絶対にそんなこと言わないキャラなのに、なんて失礼なことを思ってしまったりもして。

「…コルネオも、あのタークスも。……ナマエに触れるのは俺だけでいい」
「く、クラウド…?」

本当にどうしてしまったんだろう。颯爽とバイクで風を切りながら、つらつらと出てくる信じられない言葉に、さすがに顔に熱が集まってくる。恥ずかしいけれど、でも嬉しくて口元が緩んでしまうのが自分でもわかった。

「前にエアリスに言われた。俺はわかりにくいらしい。だからちゃんと言葉にしろってな」
「…う、嬉しいけど、恥ずかしい」
「ふ、…その顔、今は見れなくて残念だ」

小さく笑ってそう言ったクラウドに、やっぱり敵わないと思った。最初はどこか距離を置かれて、私の手が触れるだけでも気まずそうにしていたクラウドが、想いが通じ合ってからは別人のように格好良くて。もちろん、もともと格好良かったけれど、男の人なんだと思わされてドキドキさせられることが増えて困る。困るけど、私だけにしか見せない顔が見れて、どんどんクラウドが好きになる。
こんなこと、クラウド本人には言えないけれど。でも、エアリスの言う通りだとも思う。言葉にしなきゃ伝わらないことが沢山あるから。

「クラウド」
「…ん?」

ビックスよりも少しだけ小柄で、でも骨張っていて筋肉がついた逞しい背中。それにピタリと頬をつけて、身体全体でクラウドに抱き着く。

「クラウドだけだよ。こんな気持ちになるのも、泣きたいくらい幸せになるのも」
「……ああ。俺もだ、ナマエ」

小さく返ってきた答えに、本当に少しだけ泣きそうになったのは、クラウドには秘密にしておいた。

それから暫くハイウェイ上を進んだ時に、少し前を走っていた車の荷台に乗っていたバレットが振り返って、サングラスの奥の目を見開いた。何事かと私も振り返って、その光景に思わず息を呑んだ。

「なに、あれ…」

私たちが逃げてきた神羅ビル。それを覆い隠すように、これまで見たこともない量のフィーラーが空を飛び交っていた。それは例えるならビルが大きな竜巻に飲み込まれているようで、とにかく異様としか言いようがない。クラウドもちらりと後ろを振り返って眉間に深く皺を寄せた。それからすぐに聞こえてくる、複数のモーター音。

「…もっと厄介なのが来たな」
「うん、やるしかなさそうだね」
「好きに動いていい。ただ、無茶はするな」
「あ、言ったね?クラウド」
「ああ、ナマエを信じてるからな」

その言葉に私は笑って頷いて、背後から迫ってきた追手をちらりと見る。かなり多いけど、と内心苦笑しながら、マテリアを嵌めたバングルに触れた───。

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