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途中、大型の機械兵器まで出てきた時はどうなることかと思ったけれど、なんとか気力を使い切らずに追手を撒くことができた。ただ前方に見えてきた人影に、また足止めを食らうことにはなったけれど。ブレーキをかけてバイクを止めたクラウドに、同じようにティファたちも車を止めた。
「…クラウド」
「ああ…」
「大丈夫、行こう」
バイクから降りた時にはもう、その姿は見えなかった。でもきっと、この先に…セフィロスがいる。険しい表情のクラウドに微笑んで声をかけて、私たちはハイウェイを歩き出した。
少し歩いた先に、ひらりと舞い落ちてきた黒い羽に頭上を見上げる。ゆっくりと空から降りてくるセフィロスを、私は真っ直ぐ見つめた。
「あなたは、間違ってる」
凛とした声が辺りに響いて、その声を発したのはエアリスだった。
「感傷に曇った目では何も見えまい」
「あなたは間違っている」
繰り返された同じ言葉に、セフィロスは冷酷な笑みを深くした。その瞬間、鳴き声のような悲鳴のような、耳を塞ぎたくなるような音が夜明け間近の静寂に響き渡った。同時に私たちの周囲に集まってくるおびただしい数のフィーラーに目を見開く。まるで黒い壁だ、運命を変えさせまいと藻掻くように立ち塞がるフィーラー。それをセフィロスは長刀で一閃し、黒い壁に亀裂を入れた。
「早くこい、クラウド」
それだけ言うと、その亀裂の中にゆっくりとセフィロスは消えていった。クラウドもすぐにその後を追おうとして歩き出したところで、何故かエアリスが腕を掴んでクラウドを引き留めた。
「ここ、分かれ道だから。……運命の、分かれ道」
「どうして止める」
「どうして、かな…」
「エアリス、向こうには何があるの?」
ティファの問いかけに、エアリスはどこか困ったような顔をしたように見えた。運命の分かれ道、それはこの先に進むと、フィーラーが守ろうとしている在るべき未来が変わる…?
「この先は、自由。でも、自由は怖いよね…。まるで、空みたい」
「空…」
「あの人は、星の悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、かけがえのない日々、喜びや幸せなんて、きっと気にしない…。大切な人、なくしても、泣いたり叫んだり、しない…」
エアリスの言葉が胸に突き刺さる。みんなと笑ったり泣いたり、時には言い合いになったり、そんな些細な幸せを感じられなかったのは、過去の私も一緒だ。だからこそ、それを奪おうとしているセフィロスを止めなければならないんだ。
「止めたい。それを、みんなに手伝って欲しかった。このみんなが一緒ならできる。───でも、この壁は運命の壁。入ったら、止めたら、みんなも変わってしまう。…だから、ごめんね。引き止めちゃった」
「…迷う必要はない。セフィロスを倒そう」
「うん。例え運命が変わるとしても、みんなを思うこの気持ちだけは、絶対に変わらないよ、エアリス」
「クラウド…ナマエ…」
ぎゅっとエアリスの手を握って、私は前を見据えて微笑んだ。それを握り返してくれたエアリスも迷いながら笑ってくれて、私たちは覚悟を決めてその壁の中に進んだ。
越えた先は、何の変哲もないハイウェイだった。ただ、すぐに異変を感じて振り向いた時には、私たちは形を変えたフィーラーの渦の中に引き込まれていた───。