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壁に落書きがある、小さな部屋。エアリスが案内してくれた先で、バレットが簡易ベッドにクラウドを下ろした。
ベッドの傍にしゃがみ込んで、クラウドの端正な顔を見つめる。長い前髪が目にかかって邪魔そうで、起こさないようにそっと指で払った。でも、その瞬間にぴくりと瞼が動く。

「…ん」
「クラウド?」
「ナマエ…」

長い睫毛の間から覗く、翠玉の瞳。それが私を捉えて、愛おしそうに細められた。みんながいるとか、そんなことも構わずにぎゅっとクラウドにしがみつく。

「ナマエ、どうした?」
「ううん、良かった、クラウド…」
「………ここじゃあんたに触れないな」
「っなに、言って…」

耳元でボソリと独り言のように呟かれたそれに、思わず目を見開いて身体を離す。口に出てたか、なんてとぼけたクラウドに、顔に熱が集まるのがわかる。なんでそういう事、今言うの…。私だって、クラウドに触れたいよ。でも、冗談を言えるくらいには元気そうで安心した。

「ねえねえ、クラウドとナマエ、いつの間に?」
「ふふ、最近やっとね」
「あはは……」

エアリスとティファの会話に少し気まずさを覚えながら空笑いして立ち上がって、クラウドも身体を起こした。

「…ここは?」
「子供の頃、ここで暮らしたの。お母さんとふたりでね」
「エアリス、脱出の前に話してくれ。色々あるはずだ」
「……うん」

それからエアリスは話してくれた。自分が古代種セトラの生き残りであること、神羅が約束の地を求めていること、それから…。突然また湧き出した黒い影、フィーラーのことを。

「"運命の番人"という理解が最適だ。運命の流れを変えようとするものの前に現れ、行動を修正する」

レッドの言葉に、よく分からない、と正直思った。運命って、私たちや星の運命のことを言ってるんだろうけど。

「星の運命はもう決まっている…そういうこと?」
「ああ、星は力尽きてしまうらしい」
「んな真っ黒な未来に向かって俺たちを送り込むのか、フィーラーはよ。っいや、待て待て、お前は何でそんなことを知ってる?」
「…エアリスが私に触れた時、フィーラーの知識もそこにあった」

それを聞いて、ああそういうことなんだ、と理解した。エアリスがレッドに触れた時に光が流れたように見えたそれは、そういうことだったんだと。ただ、どうしてそんなことをエアリスが出来てしまうのかは分からないけれど。多分、それもセトラの力なんだと思うことにした。

「あのね、聞いて…」

エアリスが口を開いた瞬間に、またフィーラーがエアリスの周りを飛び回る。エアリスにその先を言わせないよう、邪魔しているんだ。

「わたしたちの敵は、神羅カンパニーじゃない。きっかけは神羅だけど、本当の敵、ほかにいる。…わたし、どうにかして助けたい。みんなを、星を…」
「エアリスは、何を知ってるの?」
「……今は、迷子みたい。動くほど、道がわからなくなる。フィーラーが触れる度、私のカケラが、落ちていく…。黄色い花が、道しるべだったんだ…」

そうエアリスが呟いた途端に、フィーラーの流れが激しくなる。私は咄嗟にエアリスに手を伸ばして、その渦の中からエアリスを引き寄せた。

「エアリス、大丈夫だよ」
「うん、一緒に考えよ」
「…ナマエ、ティファ…、うん!」

私とティファの言葉に頷いて、エアリスは微笑んだ。いつの間にかフィーラーは消えていて、ほっと胸をなで下ろす。
何がどうなっているのか、今はわからないことだらけだけど。それでもみんなと一緒なら、進める気がするから。

「あれ?なんだろう、モニターが…」
「うん?」

ティファが呟いた言葉に、私も視線の先のモニターを見る。砂嵐で何も映ってない、けど…。そんなことを思った途端に映像が切り替わって、知らない年配のお爺さんが映し出された。

「市長さん!」
「え、あれが市長さん…?ティファたち、会ったことあるの?」
「うん、ここに来るのを手伝ってくれたの、市長さんだから」
「ようやく見つけたぞ。あ、おい、なにをする──」
「やっと会えたっス!」
「…ウェッジ!?」

カメラがぐらりと動いて映ったのは、すっかり元気になったウェッジの姿だった。
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