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私たちは、屋上に向かって走っていた。
あの後、ウェッジ曰く本家アバランチの作戦というものが始まって神羅ビル全体が警戒態勢に移行してしまい、脱出用のヘリがある屋上へ向かうことになったのだった。
襲いかかってくる宝条お手製のモンスターを切り倒しながら先を急ぐ。なんだろう。奥に進むにつれて、嫌な感じが強くなっていく。そんなわけあるはずがないのに、自分の中の細胞が悲鳴をあげるような感覚。それを押し殺して辿り着いたのは、研究棟の最奥、かなりの広さがある空間だった。

「なに、ここ…」
「わからない。俺から離れるなよ、ナマエ」
「うん…。クラウド、嫌な感じがする…気を付けよう」

屋上へ登るには、この空間を突っ切るしか方法がない。眉を顰めて言った言葉に、同じことを思っていたのかクラウドは静かに頷いた。
広い空間の中央。無数の大小のチューブが繋がれた入れ物のなかに、原因はあった。どくん、と心臓が嫌な音を立てる。

「なんだあ、ありゃ…」
「ジェノバ──」

エアリスが静かに答えた瞬間目眩がした。見たことはなかった。でも、これが宝条が酔狂しているジェノバなんだ。横に立つクラウドが、また頭を抱えて呻き声を漏らす。反応、してるんだ…クラウドの中の、ジェノバ細胞が──。
ふと感じた、強い負の感情。それを辿って目をやった先に居たのは。

「……セフィ、ロス」
「本当に、あんたなのか…?」

それは私だけでなく、クラウドや他のみんなにも同じく見えているらしい。セフィロスが纏う空気だけで、肌がピリつく。本能的に芽生えた恐怖心のせいで、身体が鉛のように重い。

「哀れだな」
「う、っぐ…!」

尋常じゃないほど苦しみ出したクラウドに、焦りが生まれる。どうしよう、このままじゃみんなセフィロスに。…いや、そんなことはさせない。
重い身体に鞭を打って、私は地面を蹴ってセフィロスに素早く間合いを詰めた。すぐに引き抜かれたセフィロスの長刀と私のダガーが触れて火花が散る。

「だめ、戻って!ナマエ!」

ティファが叫ぶのが背後に聞こえる。でも、ごめんティファ、退けないよ。未だに苦しんでいるクラウドを放っておけないから。

「お前は…。その瞳、なるほどな。あの男のガラクタか」
「勝手にガラクタ扱いしないで」
「クラウドが大事か。…邪魔だな」

私の言葉には何も答えずに、冷酷な瞳で吊り上げられた口角。全身の体重をダガーを握った両腕にかけるけれど、びくともしないどころか、セフィロスは恐らく半分も力を入れていない。これが本家の力ってことか、なんて心の中で悪態をつく。

「喪失がクラウドを強くする。お前には──、糧になってもらうぞ」
「───っあ…?」

長刀を持っていない右手で、とん、と軽く押された身体。一瞬出来た隙。セフィロスの長刀が、私の腹部を切り裂いた。ぴしゃりと床に真っ赤な鮮血が飛んだ。

「…いや……っいや、ナマエ!!」

同時に足元に入れられた亀裂。ぐらりと傾く身体は、血を吹き出しながら下へと落ちていく。意識を失う前に最後に見たのは、泣き出しそうな顔で手を伸ばすティファと、絶望したように目を見開くクラウドの顔。ああ、また悲しませちゃった──。
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