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「ここは…?」
「研究機密情報を管理してる資料室だぞ、と」

レノに連れられてやって来た部屋は、ファイリングされた資料が所狭しとラックに収納されている小部屋だった。

「あー、どこだったかな、と…」

ひとり呟きながら色々なファイルに手をかけては戻してを繰り返すレノ。それを尻目に、私はファイルのラベルを眺めていた。魔晄調査結果、自己崩壊、ジェノバ報告書…。これだけでも神羅という組織がいかに真っ黒か、手に取るようにわかる。魔晄を吸い上げてエネルギーに変えるだけぎゃなく、魔晄を使って魔物や兵士を作り出してるなんて普通じゃない。

「ほら、あったぞ」
「…これは?」
「覚悟できたんだろ。自分の目で確かめるんだな。んじゃ俺はちょっと外すわ。内側から鍵、かけ忘れんじゃねえぞ、と」

薄いファイルを手渡されて、レノはそう言うと後ろ手をヒラヒラ振って部屋から出ていってしまった。とりあえず言われたとおり鍵を閉める。

「最高機密情報…」

ラベルに書いてあるのはたったそれだけ。ここに、ジェノバ=レプリカのことが…。ファイルを開いて、ぱらぱらと紙をめくる。

「ジェノバ=レプリカの生成方法…こんなの読んでも仕方ない…。───移植されたラットの臨床試験結果…?」

ふと目に付いた文字。そこに書かれている文章を指で辿る。

『移植に成功した全てのラットで以下の副作用が現れた。本来の寿命の約三分の一から四分の一で全個体が死亡。
ジェノバ=レプリカには移植者の寿命を著しく縮めるデメリットの存在が予測される。
人間の第一号被検体についても恐らく同様。年齢にして20歳前後で死亡する可能性が高い』

そんな文章とともに挟まっていた二つ折りの紙。開いてみると、案の定それは当時の私の情報だった。
ああ、そうなんだと、どこか他人事のようにさえ思ってしまう。ショックを受けるとか、絶望するとか、そんな感情が一切湧いてこないことが自分でも不思議だ。もう、いつ死んでもおかしくないってことなんだ、私。

「……タークスはこれを見せて、戦意喪失でも狙ってたってこと?」
「バーカ、そんなんじゃねえよ、と」

突然開いた扉と、一人呟いた言葉に返されたそれ。鍵締めたのに、とふと思ったのを読まれたのか、戻ってきたレノは右手の指で摘むようにした鍵を振って見せた。

「なァ。取り引きしようぜ?」
「…取り引き?」

突然持ちかけられた話に首を傾げる。

「俺から出せるのはレプリカの情報だ。例えば、…それに書いてある代償。どーすりゃ避けられんのか、方法があるかもしれねえだろ?タークスの情報網で調べてやるぞ、と」
「……条件は?」
「この件の他言無用。独断で動いてるんだ。バレたらクビが飛ぶからな。勿論、おまえの仲間たちにもだぞ、と」
「…それだけ?」

一体その取り引きに、レノにとって何のメリットがあるっていうんだろう。うますぎる話にさすがに眉間に皺が寄った。

「はは、結構キツいと思うけどなァ。あいつの目を盗んで俺に会いに来いって言ってんだぞ、と」
「あいつって、…まさかクラウドのこと?」
「チッ、勝手に手ェ出してくれやがって…。ま、タークスの情報網をなめんなよ、と」

クラウドの名前を口にした途端、ギラリと眼光を鋭くしたレノが忌々しげに舌打ちをした。でも確かに、クラウドは鋭いところがある。この先、クラウドに勘づかれずにレノのところに来るのは骨が折れそうだとも思う。

「ねぇ。この取り引き、レノのメリットは?あのタークス様が危ない橋を渡る理由ってなに?」
「…教えねぇ」
「なにそれ」
「なんでもいいだろ。んで?乗るのか?乗らねえのか?」

レノの問いに少しだけ考える。別に自分がもうすぐ死ぬとか、それを絶対に避けたいとか、そういうのはあまり興味がない。ただ、大事な人を悲しませたくないとは思う。
レノがどうしてここまでするのか、それだけは全く理解ができないけれど。

「…わかった。その取り引き、乗る」
「ふっ…交渉成立だな、と」

ニヤリと口角をあげて笑ったレノを、ほんの少しだけ信用してみることにする。いざとなったら倒せばいいし、なんて心の中で思いながら。

「気に入った女が死ぬのは見たくねえぞ、と───」

レノが小さく呟いた声は、私には届かなかった。
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