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あの資料室を出た後も、どうやらレノは本当に私を捕らえる気はないらしく、"いけ好かねえ侵入者"に合わせてやると言ってどんどん先を歩き出してしまった。それが誰か、聞かなくてもわかる。
──クラウドたちだ。早く会いたい。あのぶっきらぼうで優しい腕の中に、飛び込みたい。
そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、振り返ったレノが心底呆れた顔をした。

「───おや?」

突然、私の背後から聞こえて来た声に、全身に鳥肌が立った。身体が鉛のように重くなって、嫌な汗が浮かぶ。ドクドクと心臓が脈打って、頭の中はあの悪夢ていっぱいになる。ほう、じょう……。

「……チッ」

小さく舌打ちをして眉を顰めたレノが、素早く私と宝条の間に、私を隠すように立った。未だに私は後ろを振り返えることすらできず、身体が無意識に震える。

「おやおやレノくん、それは…"レプリカ"だね?ひひっ、流石タークスは仕事が早くて助かるよ」
「…そりゃどーも。重役会議は終わったんすか?」
「あぁ、出る価値もないものだったがね。…丁度新しい実験を思い付いたところだったんだ。さっそく連れていこうじゃないか」
「お好きにどーぞ。昇給、期待してますよ、と」
「ひっひっ、君たちの主任に伝えておこう」

レノの信じられない言葉に、身体がびくりと強ばった。嘘でしょ…?タークスなんて、やっぱり信用するんじゃなかった。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!動いて、動いてよ、私の身体…!

「ナマエ、悪ぃな。少しだけ耐えてろよ、と」

耳元で小さく囁かれた言葉に、訳がわからず首だけ動かしてレノを窺う。真っ直ぐ私を見つめる秘色の瞳が少し細められた。それが、心配するなと言われているようで。震えが止まらない身体で、私は小さく頷いた。それを見たレノが私を宝条に差し出すように背中を押した。私は宝条の助手に両脇を抱えられるようにして、力が入らない身体で無理矢理歩かされる。ああ、地獄のような時間が始まった───。

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コルネオの屋敷でナマエをあいつに連れ去られてから、気持ちばかりが焦って仕方がない。追いかけようにも到底間に合いそうもなかったあの状況で、先に進むしかなかった俺たちは、レズリーの復讐に手を貸し、やっとの思いで神羅ビルに侵入した。ナマエがいない中、それぞれが焦りや不安を抱えていたからか交わす言葉も少ない。
もう絶対にナマエを離さないと、 誰にも渡さないと誓ったはずが、俺は好きな奴ひとり守れもしないのか。つくづく嫌気がさす。ナマエ、あんたがいないと俺は、こんなにも弱く情けないんだ───。

「あーあー、情けねえ顔だなァ、と」
「っ!?」

会議を除き見たダクトから出た後、宝条の後ろ姿を追って研究棟へ滑り込んだ先。通路の角を曲がったところで突然かけられた声に、瞬時に頭に血が登った。

「お前っ!あんときのタークス!」
「ナマエはどこだ」

壁を背にしてもたれ掛かり、腕を組んで視線だけ寄越す男に、なりふり構わず掴みかかりたい衝動が沸いてそれを何とか抑え込む。バレットが怒声を上げても、そいつは飄々とした態度を崩さない。

「まぁそう焦んなって。わざわざ教えに来てやったんだぞ、と」
「どういうこと!?ナマエをどうしたの!?」
「…ナマエはこの先だ、早く行け。じゃねえと、あのサイコパス野郎が何するかわかんねえぞ、と」
「…っ!宝条か…。行くぞ!」

レノの言葉に嫌な予感が募る。宝条は本当にイカれた男だ。このままじゃエアリスだけじゃなくナマエまで危険だ。矢継ぎ早にバレットとティファに声をかけ、走り出そうとした瞬間。

「…ひとつ貸しだぞ。あー、ちなみに。あいつの可愛い顔、ご馳走さん、と」
「…っおまえ!」
「はっ、俺に突っかかってる暇はねぇぞ、と」

すれ違いざまにボソリと呟かれたそれに、思わずカッとなって足を止めた。ただ、笑いながら続けられた言葉にぐっと思い留まって、俺は舌打ちをしてまた走り出した。
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