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昼間の六番街はどこか雰囲気が違って見える。コルネオの屋敷に入ったはいいものの、何故か誰もいなくて静かすぎるくらいだ。コルネオの手下の姿もない。首を傾げながらコルネオがいた部屋まで進んだところで、何者かの気配を感じたクラウドが突然バスターソードを引き抜いた。
「───おまえたちか」
そこにいたのは、何かと手を貸してくれたレズリーだった。クラウドもレズリーも警戒を解いて、お互い武器を収める。
「レズリー…」
「何の用だ?」
「私たち、プレートの上に行きたいの。だからコルネオを探してる。コルネオは?」
「なるほどね…。プレートの上に行く方法なら、俺も知ってる」
「本当か?教えてくれ!」
レズリーの言葉にいち早く反応したバレットが詰め寄る。ただ、レズリーがどこか浮かない顔をしているのが気になった。
「レズリー…何かあった?」
「……いや、こっちに来い」
しばらくの無言の後、レズリーは私の問いには答えずに部屋の奥に歩き出した。何度か助けてもらったとはいえ、レズリーはあくまでもコルネオの手下だ。完全に信用していいものか隣にいたティファと顔を見合わせる。
「話だけは聞こう」
「…そうだね」
クラウドの言葉に頷く。コルネオもここにいない今、上に行く方法を見つけるためには少しでも情報が欲しかった。レズリーを追って部屋の奥へ進むみんなを追った時、ふと後ろに嫌な気配を感じた。
「────?」
振り向いても誰もいない。気のせいだったんだと、奥の部屋の扉を開けた。
扉の先は、あの趣味の悪いベッドがあった部屋で、レズリーの目の前には私たちが落とされた穴がある。この先は下水道で、プレートの上に上がれるような場所はなかったと思うけど。
「この先に用がある。あんたたちが手伝ってくれるなら、上に行く方法を教えてもいい。」
「ここ、下水道だよね。何がしたいの?」
穴に視線を落としてそう言ったレズリーに問いかける。暗い表情のレズリーに、やっぱり何か思い悩んでそうだとは思ったけれど、追求はしなかった。
「コルネオの隠れ家がある。そこまで行きたい」
「俺たちをハメるつもりじゃねえだろうな」
「そう思うならそれでいい。俺は別の助っ人を探す。おまえ達も違う方法を探すんだな」
「…わかった、手を貸そう」
「いいのか?」
「裏切れば、斬る」
「それで構わない」
少しだけ口角をあげて言ったレズリーは、下に続く梯子を降りていった。それに続いてクラウド、ティファ、そしてバレットが梯子を降りて、私も梯子に手をかけようとした時だった。
「ナマエ、元気そうだなァ、と」
後ろから掛けられた声に弾かれたように振り向く。特徴的な口調と、燃えるような赤髪。そこにいたのは、タークスのレノだった。支柱の上での怪我が酷かったのか包帯だらけで、でも性格が悪そうな笑みだけは変わらない。あぁ、さっき感じた気配はレノだったんだ。
「…どうしてここに?」
「ははっ、忘れたのかよ。コルネオは神羅の使いっ走りだぞ、と」
「そんなこと聞いてるんじゃないんだけど」
「迎えに来たに決まってんだろーが」
「…またツォンの指示?」
「いーや……俺の独断だぞ、と!」
ぐい、と強く腕を引かれ、咄嗟に空いた右手をダガーにかけたけれど、それも読まれていたのか両腕を後ろで一纏めにされる。
「おい!ナマエどうした!?」
「バレット!構わないで先に行って!」
穴の中から、私が着いてきていないことに気付いたバレットが叫んで、それに身動きが取れないまま返す。怪我をしているくせに力が強すぎて、振りほどくこともできない。
「ナマエ!待ってろ、今行く!」
「もう遅ぇぞ、と」
異変を察したクラウドの焦ったような声が聞こえたけれど、レノが穴の中に向かって笑いながら一言吐き捨てて、首にチクリと何かが刺された。その瞬間、視界がぐらりと歪んで、私は崩れ落ちるように意識を手放した──。