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「なぁ、どうやって上まで行くんだ?」
伍番街スラムの市街地に向けて歩いている途中で、バレットがクラウドにそう問いかけた。今はスラムでさえも厳戒態勢が敷かれていて、そう簡単に神羅ビルに乗り込めるとは思えない。上に行くための抜け道を知っていそうなのは、と考えて、やっぱりひとりしか思い当たらなかった。クラウドも同じ人物を思い浮かべたようで、眉間に皺を寄せて口を開いた。
「…コルネオ、か」
「あ?コルネオって、あのドン・コルネオか?そいつが何だってんだ」
「裏のルート、もしかしたら知ってるかも」
クラウドの代わりに答えて、ついでに溜息を漏らした。会わずに済むなら、もうあの男には会いたくない。会ったら多分、いや絶対に斬りたくなる。
知らない内に相当険しい顔をしていたのか、いつの間にか目の前にいたクラウドが皺が寄っているであろう私の眉間に触れた。
「心配するな。もうあんな目には合わせない。俺が傍にいる」
「クラウド…、うん、ありがと」
真剣な表情で見つめられて言われた言葉。私が頭の中で考えていたこととは違ったけれど、心配してくれたことは純粋に嬉しくて、素直に頷いた。
「…ははーん。なんだ、お前らやっとくっついたのかよ」
「…え?」
「は…?」
呆れたようにバレットが言った一言に、私もクラウドも目を丸くした。やっと、って…?
「おいおい…まさか気付いてねぇとでも思ってたのか?ダダ漏れだったじゃねえか、お互いによ。なあ、ティファ」
「ふふ、うん、そうだね」
「なっ…!」
「え、…え?」
信じられないとでも言うような表情のバレットと、それに頷いて笑うティファに戸惑う。ダダ漏れって、そんなにわかりやすかっただろうか。それに今の言い方だと、クラウドもそうだったってことだよね?気恥しくなって隣にいるクラウドを見上げたら、照れたように視線を逸らされて私は苦笑した。
「と、とにかく…行こ、ほら!」
この変な空気に耐えきれず、私はバレットの背中をぐいぐい押す。わかったわかった、なんて笑いながら言うバレットが少し嬉しそうで、なんだかんだ私のことやクラウドのことを心配してくれてたんだと思ったら嫌な気持ちはしなかった。
市街地に入ると、大きなテレビがある武器屋前の広場に人だかりができているのが見えてきて首を傾げる。テレビの前には、ひとりの女の子が立っていて何かを訴えているようにも見える。私たちは目を見合わせてそこに近付いた。
「反神羅グループのアバランチが壱番と伍番のあと、調子に乗って七番魔晄炉まで爆破したんだけど、素人の悲しさで爆弾の威力を把握していなかった。その結果が、この大惨事!しかも、ウータイから莫大な資金援助を受けてたんだって!」
大げさなくらいに身振り手振りでそう話すその子に、思わず眉間に皺が寄る。
「反神羅なんて大層な看板を掲げてるけど、実際はウータイの手先。というかただの使いっ走り!これが真相!」
煽られてざわざわとアバランチへの反感が高まっていく観衆に、バレットが拳を握り締めて前に出ようとしたのをティファと一緒に引き止める。こんなガセネタに乗る必要はないし、ここで騒ぎを起こしたら動きにくくなるだけだ。確かに腹が立つのはわかる、それでもやるべき事があるのにこんな所で立ち止まってなんかいられない。バレットは悔しそうに、でも気持ちは伝わったのか握っていた拳を緩めた。
「行こう、コルネオのところに」
「…ああ、そうだな」
私たちは今一度頷きあって、六番街へと向かって歩き出した。