short novel

白馬の王女





 楽しかったなぁ。


 悠里と昼食を食べ終わった後、私はのんびりと廊下を歩いていた。

 悠里は仕事の準備で教室に戻ってしまったけれど、私にはまだ昼休みの時間が残っている。

 芸能科の食堂に普通科の私がいたから(しかも相手は悠里だし)視線は痛かったけれど、悠里と話せるのは本当に久しぶりだったからそんなの気にならないくらい楽しかった。

 楽しい気分で食事をすると体にいいって聞くけれど、まさにそれだと思う。栄養が体のすみずみまでいって幸せな気分でふわふわする。



 その声が聞こえたのは、そんな気分で芸能科の廊下を歩いていた時だった。



『屋上に呼び出されてたわよ』

『バレンタインであの子たちにチョコあげなかったからでしょ』

『相手はアイドル事務所にもスカウトされてるのに』



 何人かの女子の声が、こそこそと話している。こういう話って小さい声で話してるつもりなんだろうけれど、よく聞こえるんだよね。


 芸能科の廊下なんて滅多に歩かないし、普通科の人間はあまり芸能科にいてはいけないことになっているので、最初は気にしないふりをしていた。

 そういえば、バレンタインがあったけ。悠里は私にチョコをくれたし、私も失敗したけれど、なんとかフォンダンショコラを悠里に作ったっけ。



『ざまあみろよ。ちょっとテレビに出ているからって調子にのっているのよ。あの『悠里』は』

「悠里!?ちょっと待って!」


 悠里の名前が聞こえたので、私は知らないふりどころではなくなった。通り過ぎた階段の角を曲がって、噂をしている女子のところへ向かう。

「何よ、あんた!」

「しかも普通科じゃない!何しに来たの?」

「今、悠里って!」


 私が聞くと、芸能科の人たちは眼を細める。


「あなた『悠里』の何なの?」

「普通科のくせに」


 さっきから『普通科』ばっかり。確かに芸能科の人たちは普通科の私たちを見下しているとは聞いていたけれど、今だけはそれどころじゃない。


「私は『悠里』の友達なの!」

「友達?普通科のくせに」


 もう、いいよね。本当はこういう手は使いたくないんだけれど……。

 私は大きく息を吸い込んだ


「いいの?今話題の悠里に何かあったら、私が噂を流してあなたたちを売れなくすることもできるのよ」


 芸能科の人間が普通科の私たちを見下しているのならば、普通科の人間だって考えがある。

 本当は使いたくないけれど。私と悠里も友達のはずなのに違う人間みたいだ。


「うっ……」


 さすがに芸能科の女子たちは黙った。





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