short novel

Change the Game





「いやぁ、よぉエト。やってくれたよなぁ!」


 会場から出ても、まだ門脇は豪快に笑いながら言う。僕はこれ以上背中を叩かれると、あざではなくこぶができそうだ。

 外は真っ暗でも、電灯さえ特になくても、僕らはお互いの表情が見えた。門脇は眉間にしわを寄せて笑っているだろう。


「本当にさ、僕らにとってもとんだ番狂わせだったよねぇ。司令塔にはやっぱり勝てないやぁ」


 小宮は通常装備の爽やかスマイルと毒舌。


「おかげでタカが目覚めたよな」

「……まぁな」


 栗山がそういって鷹野の背中を叩くと、鷹野はむすっとして言った。彼は不機嫌なわけではなく、神経質なのだ。だからこそのってしまえばスリーポイントも百発百中なのだが。


「私もあそこまでとは思っていませんでしたねぇ。ただボールを持って走ってくれればいいと思っただけなのですが」


 どこまでが本当なのか、”司令塔”は笑っていた。小宮の口調をまねしているあたり、くえない。



「……そりゃあ、本業で負けるわけにはいかないからな」


 鷹野はそっぽを向いて答える。


「悔しかったら、関東大会は最初から外さないことですね」

「……うっす」


 鷹野はいつも通り不機嫌そうに答えた。


「あれ、返事が足りませんね。門脇君もですよ」

「えっ、俺もっすか?」

「3人くらい抜けなくてどうするんです?」



 そう、僕はあの時スリーポイントを決めて、試合の流れを無事に良い流れにした。

 無事にというのは、僕は練習でさえもスリーポイントをなかなか決められなかったからだ。実際のところ、チームメイトも僕がスリーポイントを決めるとは思っていなかった。

 僕すらも決められるとは信じていなかったのだけれど、あの時はなぜか落ち着いていた。


 相手チームがそれに驚く間も許さず、門脇がすぐにダンクシュートを決めた。あれはものすごいスピードだった。僕はスリーポイントが決まった感動もあったのかもしれないが、目で追うことはできなかった。


 門脇のあのスピードは、僕に負けたくなかったという思いだったのかもしれない。


 プライドを刺激されたのは、門脇だけではない。専売特許を先に僕に決められた鷹野は、それから1回も外すことはなかった。


 そんなこんなで味方のはずなのに、まるで争うように点を取り合って、結果、合計で関東大会に進めるくらいの点を取ってしまった。

 僕らの勢いは相手に、というかチームメイトと夢中に点を取っていたから気づかなかったが、相手チームが誰も僕らの点取り合戦に加わることはできなかったほどだった、と顧問の先生が言っていた。



 何はともあれ、今回も、”司令塔”の予言は当たったのだった。





「関東大会もこのチームでいきますよ」

「えっ?」


 僕の声は裏返った。


「あれ、何驚いているんですか?」


 ”司令塔”は小宮に負けない爽やかスマイルなのだろう。


「君も、私たちのチームの一員でしょう?」



『関東大会では、あの反撃の一撃をもう一度見たいものですねぇ』


 どこか遠くのもののように、”司令塔”は呟いた。僕が答える前に、暗闇の中で声がする。




「悪いけれど、今度はそんな状況にしませんよ」


 小宮が少し不機嫌そうに言った。それは”司令塔”が小宮の口調をまねしているからだけではないだろう。


「おうよ。タカ、ぜってぇエトより先に決めろよ」

「……言われなくてもそのつもりだが」

「いやぁ、今度は俺様が反撃するんだから、エト黙って見てろよ」

「おいクリ、俺ら役立たず前提かよ。それは黙ってられねぇぜ」

「いいですけれど、敵に倍点を取られたら許しませんよ栗山君」

「俺から点が取れるとでも?”司令塔”が予言してくれないなら、俺が予言しますよ」

「それは頼もしいですね」


 僕だけ会話から遅れているが、僕はそのことに感謝した。嬉しくて涙が出そうで、とても普通に会話なんてできそうにない。



 僕は彼らと共に苦しい練習に耐え、彼らと同じくらいバスケを愛していた。

 だけれど、好きな気持ちだけではバスケは上手くならなかったし、試合でも活躍できることはなかった。

 逆に試合に出る度足を引っ張っていた。

 徐々に試合には出なくなり、試合に出ることが怖くなった。



 だから僕は、自分で彼らの足を引っ張らないように、いつの間にか、同じ年の仲間なのに一線引いていたのだ。

 その線を、ようやく僕は消してもいい気がしていた。



「ちょっとコンビニ寄ってこうぜ、腹減った」

「クリが寿司ごちそうしてくれるって」

「マジで?」

「おい、そんな話聞いてないぞ」

「……茶碗蒸し」

「タカ、そんなもんコンビニに売ってねぇから」


 他の3人は笑いながら少し先を行く。



「私は信じていましたよ」


 僕はしばらく一人になれると思って安心していたら、横から声がした。


「あなたが、必ず点を決めることを。さすがにスリーポイントとは思っていませんでしたが」


『帰ったら鷹野君の練習メニューをやってみましょう』



 ”司令塔”はそれだけ言って少し先を行く。



「何食べる、”司令塔”さん?」

「えっ、お寿司はやっぱり大トロでしょう」

「おい、まだ寿司のくだり続くのかよ」

「……かっぱ巻き」

「でもそうだな、タカだけおごってやってもいい」

「嘘、それ不公平でしょ!」


 それを少し後ろで聞きながら、僕は今外が暗いことに、彼らの隣にいられることに感謝した。





Change the Game
逆転の一撃




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