short novel

Change the Game





 っていってもな……。


 司令塔は、最後僕に『最初に得点を決めろ』と言った。寺門は必ずジャンプボールに必ず勝つから、ボールを取ってゴールまで走れと。

 そりゃあさ、司令塔から太鼓判押されたうちのエースはそりゃあもう無敵だけれどさ。

 それでも、僕が得点できる?しかも何人も抜いて?


『予言しましょう。君にマークは最初はついていません』


 そりゃあ、僕はみんなが得点を決められるようにフォローするのが仕事だから、そうかもしれないけれど……。


『君はゴールしないだろうとなめられてますよ』


 そこまで言われたら、3年間バスケ1筋の僕のプライドがさすがに黙っていない。確かに、そのくらいされてもいいくらい下手だけれど。





 ブーーッ。


 第4Q、泣いても笑ってもこの試合最後のゲームがはじまる。



『何か誤解をしていませんか。君はただの人数合わせのためにコートの中にいるわけではありませんよ』



 そうだ。鷹野に言われた言葉を借りるならば、最後の試合なら、1回くらいゴールを目指してもいいかもしれない。


 いや、僕はゴールを目指したい。



「しゃあおらぁ!」


 ジャンプボールを決めて短く歓声をあげる寺門の声が横で聞こえた。それと同時に、僕の手元にはボールがあった。

 おそらく、司令塔がまわしたのだろう。


「今です!走りなさい!」


 司令塔の声に押されて、僕はさっきまでの迷いと不安から走り出した。


 相手チームは走り出した僕に驚いたが、すぐに反応してくる。敵の壁がいくつも僕の周りを囲む。

 僕の足では、おそらくノーチャージエリアはおろか、フリースローレーンにも入れないだろう。そして僕の背と力ではあの壁を越えられない。



 それだったら。



 僕は足を止める。久しぶりだから、線を踏んでないか確認する。思った通り、線の前だ。



「何してんだ、止まるなバカ野郎!」


 遠くで寺門の声が聞こえた。司令塔の声は聞こえなかった。僕は静かにゴールを目指す。不思議と気持ちは落ち着いていた。練習でもこんなに落ち着いていたのは初めてだったかもしれない。



 ボールがゆっくりと僕の手を離れる。



 後ろでは、司令塔が頷いている気がした。鷹野は目を見開いている気がした。



 ボールがネットを通った後、寺門が容赦なく次の反撃の一撃をくらわせた。





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