Change the Game 「まずみなさん、1回点数のことは忘れましょう」 司令塔が穏やかに言ったのはそこまでだった。何せ、インターバルの時間はもう1分を切っている。 「第3Qの敗因は、相手に得点を許していることと、私たちの得意なプレースタイルが阻まれていることです。 全員マークが甘い。割り当てられた分はきっちりマークしなさい。そして、まず小宮君」 「はい」 さっきまでの間延びした声から一転して、小宮にしては珍しい、少し張りつめた返事をした。 「4番のダンクシュートの彼もなかなか手ごわいのですが、影の得点王は2番です。彼はスリーポイントを得意としています。君の得意分野ですね。時間はもう十分でしょう?」 「はぁい」 小宮は、『参謀』と呼ばれているのは、決して背番号が3番だからだけではない。特に小宮は、フェイントや相手の行動を予測して阻む心理戦を得意とする。 特に冷静さと指先の器用さが求められるスリーポイントを得意とする選手は、彼の恰好の餌食だ。 「では、彼を止めるのは任せましたよ。次に、寺門君」 「俺は指示なんか従わないぜ。俺はダンクをしたいんだ」 「分かっていますよ」 司令塔の言葉さえも遮る寺門に、司令塔はにこやかに言った。3人マークがついている現在では、彼はなかなか前へボールを飛ばすどころか進むことすらできないのだ。 「あなたに言うことは1つだけです」 その時、細くなった目が鋭く光った。 「全員抜きなさい。リバウンドもガードもマークも。そのためにも、我々が抑えます。栗山君は守護神の名を廃らせないでしょう」 「おう。……分かってるならいいや」 さすがの剣幕に寺門も押されたようで、寺門はうなずいた。いつも通り良い動きをしている栗山にもさり気なくプレッシャーを与えている。 「さて、鷹野君」 鷹野は名前を呼ばれて、やっと頭からタオルを取った。彼は相手に先にスリーポイントを決められたため、焦って全くシュートが決まらない。 また、得点を決められない寺門が焦ってボールをほしがり、ゴールへボールを飛ばす機会を与えられない。 それよりも、”最後の試合になるかもしれない”という重圧が彼にのしかかっているのだろう。 「1つ予言をしてあげましょう。君は、スリーポイントラインに立てば、外さないでしょう」 2年生と交代を告げられるとびくびくしていた鷹野は、びっくりして顔を上げた。 「最後の試合になるなら、スリーポイントは決めて終わりたいでしょう?今まで入っていたのだから決まります。自分を信じなさい」 『私はあなたを信じていますよ』という言葉は、もう鷹野には十分伝わっただろう。 「さてと、それでは最後に、江藤君」 「えっ?」 いきなり僕の名前が呼ばれて、僕は裏返った声を上げた。まさか今回のレギュラーなのはただ3年であるというのが理由の僕に、何か仕事があるなんて思わなかった。 「君には、試合の流れを作ってもらいます」 それから司令塔が言ったのは、僕には信じられないような言葉だった。 prev/next |