short novel

Change the Game




 ブーーッ。


 第3Qの終了を告げるブザーが鳴り響いた。


「チッ、あと3秒あればダンクいけたのに!」

「いやぁ、あれだけ人がいたらブロックされちゃうでしょう」


 オフェンスのエース寺門が悪態をつく中、小宮が爽やかスマイルで返す。

 3年間チームメイトをやっている経験でいえば、あの笑顔は表面的なもので、内面はかなり苛立っている、と思われる。


 それも当然。第2Qでの点差は縮まるどころか、さらに開いてしまったのだから。第1Qで同点だったことがさらに焦りを増加させている。


 このままこの試合に勝つことができなければ、関東大会に進むことはできない。

 高校最後の大会だから、どうしても僕たちは関東大会に進みたかった。



「それとも、何。テラはスリーポイント賭けてみるつもりだった?」

「お前、馬鹿にしてるだろ?そんなのはタカに任せておけばいいんだよ」


 センターの栗山が二人を引き離すために言った。しかしそれは地雷だということに本人は気づかなかったに違いない。

 いきなり話を振られたタカこと鷹野は、頭からタオルをかぶって飲み物を飲んでいたが、会話は聞こえているだろう。


「タカに?お前何考えてやがる。あいつは」

「はいはい、ストップね、お二人さん」


 寺門がそれ以上何か言う前に、指令塔の声が響いた。いやそれほど大きな声ではないのだが、彼の声は僕たちにとっては天の声なのだ。



 僕らの部には3年生は僕ら5人しかいない。

 僕らの高校のバスケのレベルはもしかしたら他の県では強豪と呼ばれるのかもしれないが、僕らの県にはもっと強い高校がたくさんある。

 そのため、バスケで全国を目指そうと思って僕らの高校に入る生徒はいない。

 逆にバスケを初めてやってみようかなと思う生徒は、最初の1ヶ月で断念する。それはただ単に練習がきついから。

 ということで、最初は10人ほどいた僕らの代もどんどん数を減らしていった。僕はそこまでバスケが上手いわけではないけれど、練習が楽しくて、いつの間にかバスケを好きになって、結局ここまで来た。



 僕は今、最後の試合になるかもしれないということで、大して上手じゃないくせにコートに立っている。

 対して”司令塔”は、希に見る優秀なポイントガード。戦略にかけては大人もなかなか彼の右に出るものはいない。僕らには試合中は”司令塔”と呼ばれている。



「小宮君。君が苛立っていても仕方がないでしょう」


 まるで寺門は何も悪くないような言い方であるが、彼は感情的になりやすいので、あまりゲーム中は責めてはいけないという暗黙のルールがある。


「はぁい」


 小宮はのんびりとした声を出して引き下がった。


「さてと」


 我がチームの司令塔はタオルを首にかけると、いつも通りすばやく指示を出し始めた。





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