short novel

祝福




「顔を上げなさい」


 可能性の女神は、顔を上げた勇者の顔を見つめた。

 結局答えを見つけられなかった女神は、勇者を見てから決めようと思っていたのだ。

 顔を実際に見れば、勇者が何を必要としているのか、魔王を倒すために何が欠けているのか分かると思っていた。


 しかし、勇者の顔を見つめても何かが思い浮かぶことはなかった。



 仕方がないので、女神はこれまで与えていた何かを与えようと思った。可能性の女神が手をかざしたところで、女神はひらめいた。




 勇者がこれまで何を本当に必要としていたか。女神たちは勇者に本当は何を与えていたのか。




「勇者よ。私の眼を見なさい」


 勇者は女神たちから初めて祝福を受けるので気づかないが、これまでの儀式とは異なる形に、他の女神は驚いていた。


「私は可能性の女神。ずっとこれまで私から祝福を授かろうとする勇者に何を与えていいか分からず、様々なものを与えてきました」


 勇者はそれを聞いて、少し不安そうな顔をした。可能性の女神は微笑んだまま続ける。


「しかし、今やっと貴方に何を与えればいいか分かりました。そしてこれから私たちの下へ訪れる勇者に何を与えればいいかということも」


 可能性の女神の言葉に、他の女神たちは胸をなで下ろした。もしや勇者に何も祝福を与えないのではないかということも不安だったからである。


「ですが、今後魔王を倒すために立ち上がる勇者はいません。貴方が魔王を倒そうと向かう最後の勇者です。貴方が魔王を倒します」


 可能性の女神は今度は途中で止まることなく、女神の眼を見つめたままの勇者に手をかざした。



「私は可能性の女神。貴方には”確信”を与えます。貴方は今後どのような場面でも迷うことも、自分に自信がなくなることも、もうありません」


 可能性の女神からの手からは、無数の色とりどりの光の粒が舞った。


 最初意外な話をされて驚いていた勇者だったが、その女神の言葉に瞳を輝かせた。


「最高の祝福をありがとうございます!!」



 それからすぐに、勇者は魔王の元へ旅立った。





 それから数日後、女神のところには一人の青年が魔王を倒したという便りが届いた。





祝福
自分を生かすも殺すも自分次第




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