short novel

祝福





 その女神は迷っていた。


 夕暮れも終盤にさしかかり、夜空の薄紺が顔を覗かせている。虹のようなグラデーションは、可能性を見せながらも静かに夜の濃紺に包まれていくのだった。


「まだ迷っているの?」


 長い絹の衣からは裸足の先しか見えないが、桜貝色の整った爪が見えた。

「えぇ」


 明日も勇者が来る。最近、魔王が四千年の眠りから目覚めて地上を荒らしていると聞く。

 それを征伐するためにもう何人もの勇者が魔王に立ち向かっていったが、誰一人として戻ることはなかった。


 女神たちは勇者に魔王のいるところへ向かう前に祝福を授ける。1人1つずつであるから、勇者は5つの祝福を受けることになる。

 知恵の女神は知恵を与え、勇気の女神は勇気を与えるというように。


 その女神は、何を勇者に与えればいいかずっと迷っていた。





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