short novel

それぞれの守りたいものは矛盾する




「理由は聞かないのか?」


 『理由』か。私たちは果たして、そんなことを尋ねても答えてもいい関係だったのだろうか。いつからそんな深い関係になったのだろうか。

 彼女は自分の心境には構わず、段の最後の1段を降りる。


「何の?」

「例えば、なぜ10分前に来たのかとか」


 彼がどのような返答を期待しているのか、彼女には全く見当がつかなかった。彼女と彼との関係は、取引をするのか、取引決裂のため殺しあうかどちらかだったはずだ。

 その選択肢しかないはずだ。彼もそう思っているはずだ。それとも――。



 彼女は希望的観測を頭から振り払い、別の可能性の高い状況を思い浮かべる。

 彼は、彼女よりも性別上では身体能力が勝っているからなどという理由で彼女を侮っているのだろうか。

 それならば、覚悟はどちらが上かやってみればいい。銃撃戦ではどれだけ早く引き金を引けるかで勝敗が決まる。

 相手のことを何とも思っていないという時点では2人は同じかもしれないが、理由などを探ってくる時点で勝算は分かれた。


 その勝算をより確かなものにするために、彼女は女の武器を使うという選択肢もあった。

 だが、男と同等に戦うことを求められてきた彼女にとっては、そのような器用さはなかった。





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