short novel

かわいらしく、ブルー




「麻子はきっと、良い先生になるよ」

「そうかなぁ」




 未来は変わっていないかもしれない。私も変わっていないままかもしれない。実は、何も変わっていないかもしれない。


 私はいつかまた壁にぶつかるだろうし、絶望に浸食されるだろう。

 でも、辛い思いをしても前に進みたいという気持ちがあること、苦しいことを経験した分前に進みたくなることも知っている。

 その分前に進むことに重みがあるし、気持ちも強くなる。全てが無駄にならないこと、全てが無駄にはならないことも知っている。


 だからどんなことがあっても、私はここにいること、ここで頑張ることを受け入れられる。



 そんな今だったら、あの頃よりは上手く生きられるような気がする。



 そんな気持ちであと数日後、私たちにもここを旅立つ順番が回ってくる。





「1つはっきりと言えるのは、モノクロ映画を見ているときに『何で色をつけるんだ』なんて聞く男はなしね」


 いつの間にか、最初の話に戻っていた。優美のマイペースパワーは恐るべしだが心地よい。



「あぁ、ないね。その男はきっとずっと白黒で生きていても平気なのね」

「モノクロだからいいと思うのかもしれないし、それもあると思うけれど、最初から取り合ってくれないのはね」

「じゃあ『運命の人は、モノクロ映画を見ても色の話を1つもできない人ではない』ってことね」


 優美はもう2つめのみかんの皮をむきながら、私を見て目を輝かせる。


「白黒の話も聞きたいね。それはそれでおもしろそう。
そういえば、麻子覚えてる?黒だけで青空を書きなさいって課題のとき」

「あぁ、あれね。私が描いたのは夜空って言われちゃったっけ」


 私は『青』と変わらない絵しか描けなかった気がすることを思い出してまた笑った。


「卒業式前に、もう一度”青”の絵を描いてみようかな」

「いいね、それ!」


 そしいつか、てそれも『青』の隣に飾って、どちらも同一人物が描いた絵だと伝えるのだ。

 その人がこのように明るい絵を描けるようになったのは、絶望しているときもあきらめずに自分として現実と戦ったからということと、近くにいつも支えてくれる人がいたからだということも。



 みかんの最後の1つを口に放りながら、私の頭の中には春の柔らかな色の青空が浮かんでいた。


かわいらしく、ブルー
いつかの希望のための絶望の話




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