ついのべ

空におちる夢をみた
140字の文章 配布元・お題は後書きに記載


細身の男を追っていた。身幅の合わないスーツで余裕がある。人通りはまばら。柱に隠れながら後を追う。飄々と歩く標的は前触れもなく路地を曲がる。我々も直後に続く。先も道だが、男はいない。凝視しても見当たらない。貴婦人や身幅の合わないスーツの太った紳士が、呆然とする我々を追い抜いていく。
May.22 後書き


無意識で手が動いているという類の、細々と続く趣味がある。名声や金、誰かの共感等は不要。当時の自分以上に再現できる者など皆無だから。今日も花が綻ぶ様を、晴天の雲の軌跡を、新緑をそよぐ風を書き留める。数十年後だったとしても、私は閃光と共にこの一瞬の閃光を見る。それだけで十分であった。
May.2 後書き


友達に勧められてアイドルの番組を見てみた。彼のあまりのかっこよさに目を奪われた。テレビで見れば見るほど好きになっていった。深みにはまってしまったことを後悔したのは彼の引退をニュースで知った時。しかしそれから数十年後、彼がおじいちゃんになってもさらに好きなところが増えていくだけだ。
November.4 後書き


『王子様に見つけてもらえなければ泡となって消えてしまうのです』おとぎ話の結末を反芻する。夜になっても雨が止まないのは私の心境と何か関係があるかもしれない。顔を合わせる日を考えると憂鬱。正しくは『泡となって消えてしまいたい』ではないか。記憶は今日に置いていこう。雨となって消える幻。
June.14 後書き


世界は、分裂を繰り返していた。光と闇。善と悪。優と劣。集まったと思えば、その中でまた蹴落とし合う。やがて散り散りになり暗闇を彷徨う。誰かを否定しながらも自分を拒絶されるのは耐えられず。理由も意味も見つけられず存在しているという事実が微かに煌めく。そんな星空であってほしい夜でした。
February.28 後書き

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