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76*

 

「だから、これはお前だろ!」


 何度目かもう面倒で数えていない問いかけに、また目の前の姉は同じくこう答える。このやりとりは去年の年末から続いていて、かれこれ10日ほどになる。


「だから、知らないってばぁ」

「お前しかいないんだ!」

「だから、知らないって!」


 証拠として出している手紙には何の効果もないらしい。残念なことに、字はパソコンでうったものだが、この風船を持ったクマのシールは絶対に姉のだ。


「サンタさんなんじゃないの? ちゃんとサンタよりって書いてあるじゃない」

「僕はもう大人だからこない!」

「分からないでしょ、そんなの」

「にしたって、おかしいだろ!」


 確かに、最後には『サンタより』と書いてある。しかし、文面は、絶対サンタのものではない。


「どこの国に、逆にプレゼントをもらおうとするサンタがいるんだ!」

「だから、ちゃんと怪盗サンタって書いてあるでしょ?」

「そういう問題なんかじゃない!」

「大人なんだから、そういうサンタが来たっておかしくないじゃない!」


 確かに、プレゼントをあげるサンタがいるんだから、プレゼントを奪うサンタがいてもおかしくはな……。いや、絶対違う!


「それに、私にも怪盗サンタから手紙がきてて、もうちゃんとプレゼント置いておいたわよ。そしたらなくなってたんだから」

「……ああ、そうですか」


 もっともらしいことを言っているが、その間、姉の視線はずっと天井を泳いでいる。姉の嘘をつく時の癖。


「何あげたんだ?」

「えっ?」

「だから、怪盗サンタに」

「ヤダ、私の弟なのに分からないの? そんなの、飴に決まってるじゃない」


 片手をひらひらさせながらも、やはり視線は宙を泳いでいる。どうやら、さらに波は激しくなったらしい。泳ぐ速度が速くなっている。


「それよりも、もう三が日も終わるんだし,早くあげないと何か大事な物が捕られちゃかもよ! 例えば、この前彼女にもらったクッキーとかね!」

「彼女じゃない! それに、あれは忘年会のプレゼント交換のプレゼントがたまたま当たっただけで、もらったわけじゃない!」

「だから、怪盗サンタのおかげかもよ」


 どうやってもそうとは考えられないが、どこまでもしらを切る姉に僕は溜息をついた。分かった。そういうことなら……。


「じゃあ、姉さんと同じで飴でいいかな」

「何それ! つまんない!」

「何で? 姉さんに関係ある?」

「そ、それは! ええっと!」


 途端にしどろもどろになる。おもしろい。ここまでくると、やり返すためにのりたくなる。


「も、もしかしたら、お礼に妹とカラオケができるかもよ!」


 ちなみに、我が家には妹はいない。姉を慕っている会社の同僚の女の子を姉が気に入ってそう呼んでいる。


「それはプレゼントあげなくても、優しい姉さんが企画してくれるでしょ?」

「それはそうだけれど……」


 あっさり認める姉。おっ、これはもしかして、珍しく、今回は僕の優勢なんじゃないか? こんなことあったか?


「じゃああげなくてもいいじゃないか」

「二人っきりにしてあげてもいいのよ。あのお兄さんをなんとかして」


 そ、そうくるか……。

 ちなみに我が家には兄もいない。先ほど妹と呼ばれた女の子の兄を指している。何だかんだで気にはなるので、それもいい。社会人になってから、さらにそういうことは減ったし。

 それに、あのお兄さんは、妹の近くに男を近づかせないようにしている。時折殺気だっているのは、僕の気のせいではないはずだ。


 よく考えろ。飴なんて安いものじゃないか。それと女の子と二人っきりになれる権利。何を迷うことがある。


「分かった。今晩何かを置いておくよ」


 言ってしまってから、また姉に勝つ機会を失ったことに気がついた。


「そうね! それがいいと思うわよ! ちなみに、高い物であればあるほどお礼は早くなるからね」



 姉のその言葉を聞いて、僕は少しだけ高い飴をコンビニで買っていった。

 翌日、なぜかその飴が消えていて、なぜか姉がおいしいと言いながらほおばっていたことには、僕はびっくりしなかった。



怪盗サンタ
来年、我が家には怪盗サンタが二人現れるかもしれない。