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「どこにいるの!?」


 聞き覚えのある声が、必死に俺を呼んでいる。すっかり教室はオレンジ色。あー、また夕方まで寝ちゃった。何時間経ったんだろう。

 名前を呼んで廊下に出ると、涙目のまま子犬のように駆け寄ってくる。毎回思うのだが、あの制服のスカートの短さは校則が許しているかは知らないが、反則だと思う。


「どした?」

「ふられた!」

「またか」

「またって言うなぁ!!」


 このやりとり間10秒。また俺は片思いの女の子を泣かせてしまう。


「あーっ、泣くなって」

「またかって、うぅっ」

「ごめんって」


 頭をなでてやると、俺の胸に軽い衝撃。あー、くそかわいい。


「今日も忙しいって」

「うん」

「土日も放課後も」

「うん」

「いっつも部活ばっかり!私と部活どっちが大事なの?」

「部活かもしれないな」

「あんたに聞いてない!」

「あー、はいはい」


 思った通り、ふったお相手は女子ハードル走期待の星。大会へひっきりなしに行っているから、今日も練習に明け暮れているのだろう。


「そりゃあ、帰宅部のあたしには分からないけれど」

「そりゃそうだろうな」

「惰眠部のあんたが言うなぁ」

「そんな部活あるのか?」

「うるさい!」


 泣いているくせによくしゃべる。よくなく犬ほどなんだったけな。


「そんなに泣いてもらうほど想われているなんて、幸せだよ。きっと」

「分かったように言うな!」


 『俺だってそのくらい想われたいのに』という言葉は今日も胸にしまう。代わりに、いつもとは違う言葉を口にする。


「で、今日は暇になったの?」

「えっ?」


 落ち着いてきた子犬は、パッと俺のワイシャツにできた染みから顔を上げる。


「じゃあ……。ゲーセン行こうぜ」

「いいの!?」

「うん」


 子犬は少し戸惑ったように、目を伏せる。


「あれ、おかしい。悲しいのに嬉しい」


 髪をくしゃくしゃにすると、涙目のまま子犬は笑顔を見せた。


「で、それってデートなの?」

「えっ!?」

「ふーん」


 何も答えられなくなった俺の腕を子犬は引っ張りだす。


「どうしたの?行こ!」


 子犬の目の輝きに見とれている間に、俺の腕を引っ張って、子犬は歩き出す。



 2人並んだ影を見て、誰かには友達じゃなくて仲の良い恋人に見えればいいと思った。



迷う涙
悲しみを分け合うことは悲しくない