69 「どこにいるの!?」 聞き覚えのある声が、必死に俺を呼んでいる。すっかり教室はオレンジ色。あー、また夕方まで寝ちゃった。何時間経ったんだろう。 名前を呼んで廊下に出ると、涙目のまま子犬のように駆け寄ってくる。毎回思うのだが、あの制服のスカートの短さは校則が許しているかは知らないが、反則だと思う。 「どした?」 「ふられた!」 「またか」 「またって言うなぁ!!」 このやりとり間10秒。また俺は片思いの女の子を泣かせてしまう。 「あーっ、泣くなって」 「またかって、うぅっ」 「ごめんって」 頭をなでてやると、俺の胸に軽い衝撃。あー、くそかわいい。 「今日も忙しいって」 「うん」 「土日も放課後も」 「うん」 「いっつも部活ばっかり!私と部活どっちが大事なの?」 「部活かもしれないな」 「あんたに聞いてない!」 「あー、はいはい」 思った通り、ふったお相手は女子ハードル走期待の星。大会へひっきりなしに行っているから、今日も練習に明け暮れているのだろう。 「そりゃあ、帰宅部のあたしには分からないけれど」 「そりゃそうだろうな」 「惰眠部のあんたが言うなぁ」 「そんな部活あるのか?」 「うるさい!」 泣いているくせによくしゃべる。よくなく犬ほどなんだったけな。 「そんなに泣いてもらうほど想われているなんて、幸せだよ。きっと」 「分かったように言うな!」 『俺だってそのくらい想われたいのに』という言葉は今日も胸にしまう。代わりに、いつもとは違う言葉を口にする。 「で、今日は暇になったの?」 「えっ?」 落ち着いてきた子犬は、パッと俺のワイシャツにできた染みから顔を上げる。 「じゃあ……。ゲーセン行こうぜ」 「いいの!?」 「うん」 子犬は少し戸惑ったように、目を伏せる。 「あれ、おかしい。悲しいのに嬉しい」 髪をくしゃくしゃにすると、涙目のまま子犬は笑顔を見せた。 「で、それってデートなの?」 「えっ!?」 「ふーん」 何も答えられなくなった俺の腕を子犬は引っ張りだす。 「どうしたの?行こ!」 子犬の目の輝きに見とれている間に、俺の腕を引っ張って、子犬は歩き出す。 2人並んだ影を見て、誰かには友達じゃなくて仲の良い恋人に見えればいいと思った。 迷う涙 悲しみを分け合うことは悲しくない |