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 この目を開けて最初に映ったものを描こう。


 その画家はふとそんなことを思いついた。というのも、彼は画家という職業に就きながらも、ずいぶん長い間その仕事を放棄しているからだった。

 真っ白のキャンバスに向かっても、筆を持っても何も描くことができないのだ。それは彼の前に無限であるはずの色の材料が、絵具として全て彼の目の前にあるかもしれない。


 と思いついて目を開けてみても、その目に映るのは慣れ親しんだものばかりでその画家を描きたいと思わせるものは何もなかった。


 外に出れば気分が変わるかもしれないが、何しろ外にはもっと描き飽きたものばかりだ。美しい風景も心惹かれる人物もずいぶん描いてきた。



 何かを確かに、描きたいのだ。描きたいというエネルギーがその画家の内側から出たがっている。しかしその対象が見つからない。いや、それを満たす対象が見つからないのだ。


 また何も進まないままエネルギーを持て余している画家は、ふとある思考をとめた。



 この目を閉じて最初に映ったものを描こう。



 その思いつきを実行するために、画家はしばらく目を閉じていた。


 しばらくして画家が目を開けると、真っ先にキャンバスを真っ黒に染めはじめた。



この目に最初に映ったものを
その画家が何を描いたのかは本人しか知らない






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