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『昔話をしてあげる』


 その言葉ではじまったお姉さんの声は、いつもの楽しいお話をしてくれる時の声と何も変わらなかった。だから僕は、いつもと変わらずお姉さんのところへ走っていった。


「何の話ー?」

「ある小さな女の子お話よ」

「小さな女の子?」

「そう。ちょうどあなたくらいの女の子の話」

「どんな子なの?」

「そうねぇ……。髪は長かったわね。穏やかでとっても優しい子だったわ」

「じゃあ……」


 僕が言おうとしたことを言い終わる前に、お姉さんはにっこり笑った。


「あんまり知ると楽しくなくなっちゃうわよ」

「はーい」


 僕はお姉さんの近くに座って、お姉さんの方を見た。お姉さんはにっこり笑ったまま、話をはじめた。


「昔々、ある小さな村に小さな女の子がいました。その子は穏やかでとても優しい子でした。しかしその子のお母さんとお父さんはある日、その子のことを置いてどこかへ行ってしまいました」


 いつもお姉さんが話してくれる話とは違って、何だかその話は悲しい話だった。


「残された女の子は、たった1人になってしまいました」

「お友達はー?」

「たくさんいたわよ。けれどその子はお友達のことが大好きだったのよ。だから自分のことを話してそのお友達に悲しい思いをしてほしくなかった。だからある日、たったひ1人で村から旅に出ました」

「そんなの、おかしいよ!」


 気がついたら僕は、大きな声を出していた。お姉さんはいつもにっこりしているのに、びっくりしたように僕を見ていた。


「何で?」

「だって、本当にそのお友達のことが大好きなら、その人の側を離れたくないと思うでしょ?お姉さんもそうでしょ?」


 お姉さんはちょっと困ったように下を向いた。


「そうだけれど、もしも側にいることでそのお友達が悲しい思いをするのなら、それでも側にいたいと思うのかな?」

「思うよ!!」


 僕は何だか悲しそうな顔をしているお姉さんに向かって言った。


「きっと、大好きでいてくれる人が悲しいままだったら、誰も悲しいよ!」

「そう……」


 お姉さんはそれだけ言って、やっとにっこり笑ってくれた。


「そう言ってもらうために、私はこの話をしたのよ。誰もこの話の女の子のような思いをしてほしくないから。だからこの話は、これでおしまい」


 お姉さんはいつものにっこりした顔で『次は何して遊ぼっか』と聞いた。



 それから数年後僕はその話の続きを聞いて、その女の子が誰のことなのか知ることになった。



昔話をしてあげる
悲しみを繰り返さないための物語






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