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 別れは夜にすると決めていた。

 時の流れを止められないなら、季節の移り変わりを止められないなら、その時が来るのは避けられなかったなら、せめて自分で夜にするとずっと前から決めたかった。


 周りの人々はみな不思議がった。

 夜は暗くて不安になるし、何も見えないし、夜行性の獣に狙われたり危険が多いと。

 きっと理解はしてもらえないだろうから私は気にすることはしなかった。私が可能性は同じでしかないのに、なぜ生き延びる時間を少しでも長くしようとするのか分からないように。他人が朝や日中や夕方を選ぶのか私が分からないように。


 選択肢がないわけじゃない。ただ、誰も選ばないだけ。不自然なわけじゃない。ただ、珍しいだけ。そう、それだけの話。それなのになぜ、不審がられてしまうのだろう。



 太陽は地面に食われた。私はこの先に必要ない思考を止めて荷物をまとめた。


「時間よ」


 そう告げられる前に、私は何も言わずに立ち上がった。分かりきったことを言うその声というか存在が鬱陶しかった。

 私のそんな思いは暗闇で見えていないだろう。そんな理由で私が夜を選んだわけではないけれど。



『行かないで』


 私を呼び止める人は誰もいない。

 たとえ誰かいたとしても、私はふり返るつもりはなかった。たとえ、それが自分の声であったとしても。



 これまではずっと、守られていた。だけれど、これからは私がたった1人で決める。その自由も犠牲も全て私だけが払うもの。


 そこには何もない。だけれど『何もない』ということがある。それは絶望でもあり、希望でもあるはずだ。この先にある希望を全てないことにするわけにはいかない。


 夜になれば太陽が沈んでも星をたくさん見ることができるように、私の未来は暗かったとしてもそれだけではない何かがある。



 そう信じることが、これからの私の最初の1歩。



光が知らない希望のこと
これからへの最初の1歩






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