30 ※死表現あり できることなら、この身を焼いてしまいたかった。 あの窓から見える何もかも真っ白なこの部屋さえも赤く染める夕日と、一緒にこの世界から消えることができたら、どんなに幸せだろう。 そしたら、彼が翌日あるいは数時間後、私を見て悲しむことはなくなる。 先ほど『また明日』と言って心配そうな顔をして、それでも振り返らずにいつも通りに彼は出て行った。無理してくれているのは分かってる。それを私に見せないのは、彼が信じてくれているから。「私とまた明日も過ごせる」ということを。 私の寿命が残りわずかだと知らされたのは、もうずいぶん前のことだった。でも私には分かる。私がこの世界に留まれるのは残り数分だろう。 だから何か遺そうとペンを手に持っても、彼のことを想うと何も書くことはできなかった。書きたいことはたくさんある。だけれど、どれも言葉という形をとらない。あるいはこの紙の上に、黒い文字として存在を制限されるのが嫌なのかもしれない。 それでも私は何か遺すために、思いついたありきたりな言葉を2つ書いた。「あ」からはじまるたった5文字の言葉には、私の想いをどれも表してはいなかったけれど、消す気はなかった。 そしてその下に、ずっと言わないで胸にしまっておいた言葉を書いた。 彼は、この時を一緒に過ごすことができなくて悲しむかもしれない。でも、私は誰もいなくて良かったと心から思った。 幸せそうに微笑もうとする必要はなかった。この時になってもまだ幸せな気分でいられることに驚くことはなかった。太陽が沈むのを感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。 見えない終わりに感謝します あなたも幸せになってね |