※俺×南沢。
 6日目、夜の話。エロはない。




 時刻は18時を回った。
 俺は静まり返ったリビングへと足を踏み入れる。
 電気が点いていなく、人の気配は全くないように思えた。
 暗がりの中、窓から差し込む月明かりに照らされたそれを発見する。ソファに寝転がる、あいつ。
 俺は灯りをつけた。
 急に明るくなっても、全然起きる気配がしない。
 ソファーに近づき、そいつを見下ろす。
 名目上、俺は奴隷で、こいつは俺の主人らしい。
 こいつの奴隷になってから、多分5日か6日。奴隷といっても、世界史で習ったようなあからさまな奴隷の仕打ちを受けているわけじゃない。所謂、AVでよくあるような性奴隷といった類だ。
 実際に身体を好き勝手弄られたし、玩具も使われた。勿論いい気はしない。同性に触られて、誰が喜ぶか。心ではそう思っている。触られて気持ち良い事は、まあ否定はしない。

 小さな寝息を立てるこいつは、熟睡しているようだった。
 アイボリー色のソファーに身体を丸めるようにして眠っている。
 多分、寝首を掻こうとすればできる。こいつは鈍い面が多い。
 口がむずりと蠢く。そして、唇は弧を描く。
 どうせえろい夢でも見てんだろうな。最低だ。
 胃がきゅう、と呻き、胃液の熱を感じる。
 腹が減った。
 こいつを叩き起こして飯を作らせようかと最初は考えたが、昼に食べたハンバーグの苦味を思い出す。あれは最悪だった。まだ舌がその味を覚えている。
 ごめんね、と困ったように笑ったそいつを思い出して、苛立つ。
 空腹の影響もあり、今までの恨みをこめて、そいつの首に手をかけようかと思った。
 顔を見つめていると、目の端に痕があるのを見つける。

 泣いた痕。

 なんて安っぽいドラマみたいな展開なんだ。
 それでも、その泣き痕から視線を外せないでいる。
 乾ききった涙は、神童を連想させた。
 一週間も欠席して、俺の内申は大丈夫だろうか。
 両親も失踪届けを出しているのだろうか。
 ふと浮かぶものたちを頭の中で悶々とさせていると、そいつが呻いた。
 僅かに瞼が震え、そして目を開く。
 目を覚ましたそいつに、南沢くん、と小さく名前を呼ばれた。

「……あれ、寝ちゃってたのか」

 開いた目は兎のように赤かった。
 寝起きの細い目を擦り、首を傾げられる(男のする仕草ではない)。

「今何時かな?」
「18時18分」
「ぞろ目だ」

 何が嬉しいのか、そいつは笑った。
 そして、ご飯を作らないと、とうわ言のように呟く。
 ソファーから離れるそいつの腰は、頼りげない細さをしていた。

「おい」

 俺は、無意識にそいつの服を掴んでいた。
 皺くちゃになった白いYシャツ。その白さに目がくらくらする。
 首を傾げ、なよなよしい声音でなあに、と問いかけられた。

「あんたの飯まずいから、俺が作る」

 あんな飯、耐え切れない。
 そう言うと、やはり困ったような微笑みを浮かべられる。それなのに、頬が上気し、何処となく嬉しそうだった。

「じゃあ、お願いするね」

 いつもと全然違う触り方で、髪を撫でられる。
 ガラス細工を扱うような触れ方はとてもこそばゆい。
 こいつは、俺をどうしたいんだろうか。








6日目の補完的文。
eramisawaで「僕」喋っちゃったけれど、南沢先輩視点だから大丈夫かな。
6日目から8日目のあの流れはないなーと思って、一応ここでこんな話があったんですよと。
eraはどうして恋慕を抱くか、という所が重要になってくると思うのですよ。

11/07/25 初出
07/26 修正

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