「君が居ないと、僕はダメなの」



 僕が駆けつけた時、南沢くんは公園のベンチでぼんやりとしていた。
 走ってきたせいで上がった息を整え、ぼさぼさになった髪を直す。よし、大丈夫。
 彼の名前を呼ぶ。彼の虚ろな目に色が映り始める。南沢くんは弾かれたように、こちらを向いてくれた。

「やめちゃったんだね」
「ああ」

 隣良い? と聞いてから、僕はベンチに座る。尻に触れた場所は、少し冷たかった。
 南沢くんは、僕を呼び出しただろう携帯電話をぎゅっと握り締める。
 顔には出ていないけれど、苦しそうに見える表情。
 僕は頭を掻いた。こんな南沢くん、見るの初めてかもしれない。

「……俺さ」
「うん」
「羨ましいよ」

 誰が、とは聞かない。僕は黙って、彼の感情の捌け口となる。

「俺だっておかしいとは思った。だけど、割り切れる所まで来ていたんだ。あと1年我慢すれば良いって。今更、遅いんだよ」

 手の中の携帯電話が軋む。彼に似つかわしくない桃色の、少し前の機種。
 僕は南沢くんの手に、そっと自分の掌を重ねた。温もりを感じて、彼の目がそっと細められる。

「俺は、正しい事してきたつもりなのにな」

 声が震えていた。瞳も涙で濡れている。
 僕はその儚げな美しさにはっとする。
 愛おしさがこみ上げてきて、僕は思わず彼を抱き締めた。
 僕の行動は想定内だったらしい。南沢くんは特に驚きもせず、ただただ僕を受け入れてくれた。

「好きだよ、南沢くん」
「甘えさせて、調子に乗ったらどうするんだよ」
「別に良いよ。甘えてよ」

 慕情を繰り返し呟きながら、僕は彼の背中を掻き抱く。
 きっと君にサッカーが必要なように、僕だって君が必要なんだ。
 必死になって求める僕に、南沢くんは笑ってくれた。





南沢先輩離脱に、思わず。
こんな感じになっていたんですよ始終。でも上手く書き表せない稚拙な文だなと思いつつ。CPものじゃなくてすみません。
南沢先輩を嫁に貰うのは俺だ。

11/07/14 初出

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