ドールフェイス



 蹴る。蹴る。殴る。蹴る。殴る。潰す。抉る。蹴る、蹴る、蹴る。突く。へし折る。蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、
 床に転がった人型は死んだように、何の反応も示さない。着せた服も所々が擦り切れ、既にただの布切れへと化していた。
 ぐったりと腹を押さえているのか分からない腕を取り、それを大きく弧を描きながらぶん投げる。遠心力で、腕がぶちぶちと惨い音を立てた。腕ももう駄目らしい。
 バーンが立つ場所から遠く離れた地点に、それは落下した。大の字に投げ出された、それの目がこちらを凝視してくる。
 死んだ魚のような、溜め池のような、濁ったシアンの瞳。ガラス玉の目が光を受けて、涙ぐんでいるように見えた。

 そんな目を向けても、止めはしないぞ。

 バーンは寂しげな顔をするそれを抱き上げる。弛緩した肉体は、まるで主に忠誠を誓った犬のように大人しい。肩に委ねてくる頭を鷲掴むと、反射した光がやはり溢れ出る涙粒を錯覚させる。
 脳裏で、声が聞こえる。許しを請う彼の声音。
 それがとても切なく、とても悲しく、とても愛しかった。

(あいしてる、)



 
 殴りつけた後頭部が大きく凹んだ。
 捻じ切れた腕と、あらぬ方向へ曲がった足。
 ようやく心が落ち着いた所で、いつもの玉座へと腰掛けた。奈落の底では虐待の果てに打ち捨てられたそれが居る。
 疲れたから、回収は後だ。どろどろと睡魔が這い上がってくる。肩と頭に手がかかった所で目を閉じた。
 静か過ぎる空間に、金属同士が擦れ合う音がする。誰かが入ってきたようだ。此処に入ってくる人物は限られている。グランと、ガゼル……。
 うっとりとまどろんでいると、玉座の支柱に衝撃が与えられた。人、一人分の重さである。

「おいバーン」

 地獄から這い出てくる悪魔の声がする。
 目を開けまいと強く瞼を閉じると、指が無理矢理、肉を押し上げていく。引ん剥かされた目に映ったのは、筋肉が妙に引き攣った表情のガゼルだった。頭を掴まれ、頭蓋がぎりぎりと音を立てる。

「あの、な……その」
「おいバーン、下の人形は何だ。わたしの顔をしていたようだが」

 胸倉を引き寄せられる。服の襟が首を絞めにかかった。どくりどくり、首から鼓動が伝わる。

「わたしの顔をした人形を、何に使った」
「えーと」
「何に使った」

 頭突きをされる勢いで凄まれる。バーンは言い淀み、目を逸らした。しかし目で殺しにかかるシアンはそれを許さず、頬を叩いて相手の方へと促す。

「何に、使ったと聞いているんだ」
「……ストレス解消」

 悩みに悩んで吐き出した嘘への返答に、脳震盪が起こるかと思う程の打撃が襲う。目の前で火花が散った。

「では、わたしもさせて貰おうかな」

 ばちん、と肌を打つ音が炸裂する。続けざまにもう一発頬を打たれ、頭ががんがんした。

「大丈夫、少し意識が飛ぶ程度だ。死んだりしないから大丈夫だ」

 ばつん――ブラックアウト。






はう様からのリクエストで「鬼畜なバンガゼ」でした。
鬼畜…どこが、な話になってしまいました。吉良財閥の無駄遣いな特製ガゼル君人形。肌の感触も本物みたい!な言ってしまえばダッチワイフを愛故の暴力を振るうバーン君。それにキレるガゼルの攻撃。ガゼルもガゼルで「使い方間違ってるだろうが!このピー野郎!」と思っているのです。なんで素直にダッチワイフとして使わなかったし。
あれれな話になってしまい申し訳ありません。
はう様リクエストありがとうございます!大変お待たせいたしました!

2011.02.01 初出 

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -