ハングリードライブ



 わたしの頭に耳がついたのは一昨日で、彼に耳ができたのは今日の夕食後の事だった。
 彼はちびっちゃい白い鼠の耳をつけている。普通鼠耳というのは丸く大きいものだとあるが、実際はそうじゃない。そのイメージを万人に植えつけたのは、かの有名なW.D氏なのだろうな、とわたしは思った。

「はて、何故君が」
「健康診断あるだろ?」
「ああ」
「そん時、仕込まれた」

 ああ、研究員の悪戯か。ここの研究員は真面目なのに茶目っ気があってアクの強い奴らが多い。だから、あまり嫌われていないのかもしれないな。わたしは自分の想像と違う変化の仕方にがっかりした。

「なんだ、空間移動装置に鼠が紛れ込んだんじゃないのか」
「それ、頭が鼠になるだろ」
「おや、よく分かっているじゃないか。そして鼠の頭がお前の顔になるんだ」

 蝿男は後味悪いラストだったな。
 わたしはバーンにチーズを与えた。鼠と言ったらチーズなのにあまり嬉しそうじゃない。

「別にチーズは……」
「つまらん」
「あれはトムとジェリーの世界だよな」
「どうかな」

 それでも美味しそうにチーズを伸ばしながら食べてるじゃないか。ぴるぴると耳が蠢いている。わたしは未だに消えない尻尾を振り、バーンをくすぐった。

「鼠か」

 ちろちろと動く、バーンの尻尾。わたしのと違って、細長いそれはどこか……。

「バーン」
「何だよ」
「チーズが」

 トーストからチーズがてろりと垂れていってる。わたしはその糸を引くものを口に入れた。乳製品は最近美味しく感じるな。猫だからか。

「ガゼル」
「ん」

 バーンの目が光ったような気がする。わたしは少し喉を鳴らした。
 わたしは手元のリモコンで部屋の電気を消した。室内は明かりが落ちて、真っ暗になる。暗い中でも、わたしの目は利く。猫のそれのように、瞳孔が細くなるのを感じる。目の前にいるバーンはわたしの頬を撫でて、目が、と呟く。

「目が、光ってる」
「今わたしの目は猫だからな」

 そういうバーンも目が煌いている。金色の瞳が瞬いた。

「綺麗だ」

 そうか。わたしは声に出さず、笑った。
 バーンがわたしを抱き締めると、首に噛み付いてきた。その時、ふわりと良い匂いがした。空腹を誘うような、香ばしい獣の匂い。

「いった!」

 口の中に鉄の味が広がる。そういえば、違う血液型の血を舐めるのは控えるべきだと誰かに言われた。あれは誰だったっけ……。

「離せ!」

 肩を掴まれ、思い切り引き剥がされた。唇に濡れた感触があるから舐めてみると、やはり鉄臭い。あまり美味いものでもなかった。

「何だよお前! いきなり噛むなんて!」
「美味そうだったから」
「は?」
「美味しそうな匂いがしたから」

 チキンのような、ステーキのような……とても美味いご馳走にありつけたような嬉々と空腹感。ぐう、と微かに腹が鳴った。

「あ、ありえねえって……お前、まさか」
「なんだろうな」
「お前お前おまえぇえ! それ、お前が猫だから、鼠の俺を襲いたいとかそういうあれ!?」

 ああなるほど。バーンに言われて、はっとした。
 なるほどなるほど。そうか、わたしはバーンが食べたいのか。

「食べなくてはな」
「そうじゃない落ち着け!」
「うるさい、お前は大人しくわたしに食べられろ」
「嫌だ、うおおおおお、食べるな食べるな!」

 がぶーっとわたしは、バーンの鼻に噛み付いた。柔らかいような硬い様な……軟骨みたいだ。
 バーンはわたしの背中を滅茶苦茶に叩くから、髪を毟る勢いで彼の頭を掴む。叫び声が聞こえる。

「いだだだだだ! お前落ち着く! りらっくすーりらーっくす!」
「うるさい」
「ぴぎゃあああああ」

 鼻は硬くて敵わない。腿肉なら柔らかいはず、とバーンのズボンを剥ぎ取る。お嫁に行けない、と顔を覆うバーンにツッコミを入れたくなったけど、今はそれどころじゃない。お腹が減った。

「うわ、やめろやめろ! これ以上、先に行ったら俺の色々な物があああああ!」

 腿に顔を近づけると、バーンはありえない位の力でわたしを引っくり返した。ベッドにバウンドする体と一緒に内臓も跳ねた。気持ちが悪くなって、口を押さえる。

「お前なあ、俺を襲うとか、何、何なの? 調子に乗ってるの?」
「わたしは本能に従ってるだけだ」
「お前、本当はこうしたいって思ってるって事? いつもいつも、こっちが良いって言ってるくせに」

 わたしは会話が噛み合っていないのに疑問を覚える。彼が腹に乗ってきて、力の入らない腹筋を撫でた。

「腹が減ってるなら、今から腹いっぱいにしてやる。ここが膨れ上がるくらい」

 ぽん、と私の腹を軽く叩いてから、ズボンが下ろされる。
 呆然とするのと同時に混乱するわたしが立ち直る為にはあと1ターンが必要だ。
 バーンが動く。足に、何だか熱くて硬いものが当たった。
 ああ、なるほどなー。つまり今バーンはオヤジ臭い事を言ったのか。この変態め。
 頭の回転が上手く追いつかない。足の間に痛みを感じる頃には、わたしは抵抗してもできない状態にいた。
 
 そしてわたしは彼の言葉の通り、膨れる位腹いっぱいにされたのだった。






せろ様からのリクエストで「けもけもでお互い攻めたいガゼバンガゼ」でした。
お互い攻めたい…?どこが?というような微妙な感じになってしまいましたね…。空腹感からの行動が、バーンから見たらどうみてもマウントを取りたがっているようにしか見えなかったというオチ。そして、ネズミという少し斜め上に行ってみました。ネズミ耳ってちょびっとしてあるのが可愛いのにあんまり見ない。ネズミって萌えないのでしょうか。多分、この耳はあと2日位ついたりするんでしょうね。バーンは1日遅めに取れたりとか。動物耳って可愛いなと常々考えます。
せろ様リクエストありがとうございました!遅くなりましたが、受け取っていただけると嬉しいです^^

2010.10.30 初出 

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