※マル→ジャン



 携帯電話がポケットの中で鳴った。ジャンルカは手をポケットに突っ込んで、それを取り出した。ディスプレイに、マルコ・マセラッティ。マルコからの着信だった。

『Ciao!』

 上擦った声が聞こえた。
 ジャンルカはベッドに仰向けにダイブした。ジャンルカも、Ciao、と呟く。

『あ、あの、あのさ! 明日、暇?』
「明日か?」

 ジャンルカは壁にかかるカレンダーを見やった。赤い20の数字の下には、何の文字も書かれていない。耳に携帯を引き寄せ、マルコの声を聞き落とさないようにする。

「暇」
『ならさ、遊びに行かない? ジェラート食べに行こうよ』

 手で顔を覆う。体を優しく包む、替えたばかりの羽毛布団が気持ちいい。

「あのさ、マルコ」
『んん、何!?』
「マルコ、それもう一ヶ月連続だぞ」
『へ』

 カレンダーを眺める。赤い数字の下、今月の第一日曜日からマルコの名前が続いている。学校で会って休日でも会って、毎日マルコと顔を突き合わせているのか。ジャンルカは少々まいっていた。

『迷惑?』
「そういうわけじゃないけど」
『毎日会いたいんだけど俺は』

 さりげない言葉に、ジャンルカは溜め息を吐く。
 マルコはいきなり黙った彼が心配になり、何度か問い掛けた。
 ようやく返す言葉が見つかったジャンルカはカレンダーに寄り、机のペン立てから黒のサインペンを抜き取る。

「どれだけ俺の事が好きなんだ、お前」
『だ、誰より! 世界一!』
「はは、それは光栄だな」

 マルコのジョークに、乾いた笑いを聞かせ、ペンのキャップを外す。

「で、何時にどこ?」
『え、えあージャンルカ決めて』
「何も考えないで電話してきたのか」
『いや、OKになるなんてさ。ジャンルカも大概だよね』

 全くこいつは。じゃあ、とジャンルカは時計を見る。

「10時に、学校近くの広場な。遅れるなよ」
『俺、遅れた事ある?』
「一回な。二時間遅れ」
『あれはっ電車が!』
「分かってるよ」

 きゅ、とペンでMを描いて、小首を傾げる。もう少し字が綺麗だったら良いのに……。

『ジャンこそ、遅れるなよ』
「フィディオじゃないんだから」
『ジャンルカは日本人とかドイツ人並みだよね、時間の正確さ』
「悪かったな」

 じゃあ、明日。ジャンルカがボタンを押す前に、マルコは慌てて制止し、ジャン、と叫んだ。

『おやすみ!』

 愛してるよ! プツ、ツーツー。
 何だ今のは。
 ジャンルカは電池が一つとなった携帯を充電器へと繋いで、もう一度カレンダーを観察する。日曜日の列全てに埋まった、マルコ・Mの文字たち。これでは女の子と出掛ける事ができないじゃないか。一人の男の名前しかないカレンダーは自分で考えてる以上に薄ら寒かった。




笑えない日曜日







マルジャン熱が収まらなくて自家発電の日々です。
元ネタはペルソナ3。毎週日曜日に遊ぼうと電話を掛けてくる級友に、私が「どんだけ俺の事好きなの!」と叫んだのが発端。無意識にジャンルカの顔が見たいから遊びに誘うマルコ。これはデキるのかデキないのか…。

虚言症
↑お借りしました

2010.09.13 初出

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