ロンリー坊やに、ちゅう



 夏だ。とっても夏だ。暑い。窓を開ければ殺人熱波だ。正直、なんでそんな時に風邪をひくのか今の俺には理解できない。
 風介の為に設定温度を上げた中、皆――といっても三人だけど、でろんでろんに溶けてしまっている。その前に何でお前は自分の部屋に行かないんだ。

 今日はイナズマジャパンとの練習試合だった。要約すれば、レベル上げの為にぼっこぼこにされてくれよな! と円堂は勝負を挑んできた。まあこっちも、日本に負けてから色々特訓したわけで簡単に負けないと思っていたのだが……。さあ先制点だ、カオスブレイク! と言った所で風介がへろへろと地面に落ちてしまって必殺技は失敗。へろへろな原因は夏風邪のせいらしく、前半12分でベンチ行きとなった。結果は予想通り、イナズマジャパンの圧勝なわけで、結果は7-0とかふざけたもので……。あっちのFWのキック何よ、ボディ何よ。ほぼMAXじゃないの……。
 病院で風介の薬を貰ってから、メンバーは解散となり皆お外に駆け出した。こんな暑いのに。きっと何処かのショッピングモールで涼んでるんだろうな。ああ羨ましい妬ましい。俺たちは冷房ついてるのに暑いとか最悪な部屋に居るというのに。

「あれだね、わたしは凍てつく闇の中でしか生きられないとか言ってクーラーがんがんにつけてずっと当たってるから。しかも腕まくり」
「ここまでくると厨二病というのは恐ろしく痛いですね。二つの意味で」
「何々?」
「電気代に試合というこちらの痛手と、そのままの意味です」
「やだチャンスゥったら、僕にも喧嘩売ってるのかと思っちゃったよ」

 後ろで騒いでるのもどうにかしたい。
 風介はソファに寝転がって薄手の毛布に包まりながら、うんうん唸っている。お約束どおりなんだな、それは。

「全く、こんな時に倒れるなんてお前もまだまだだな」
「うるさい熱達磨死ね」
「なんだか機嫌悪いね」
「黙れヒステリー女男」
「なんだかなあ……口を開けば暴言って」
「風介って熱あるとちゃんと会話できないんだよな。だからほとんど自分も何言ってるのか分かんないらしい」
「厄介ですね、それ」
「チューリップとマリモ……」
「それ、私の事ですか……」

 うわ言のようにマリモと繰り返すから、チャンスゥきれそうだぞ。風介の顔ごと毛布で隠して、罵詈雑言を止める。

「ていうか寒いんなら部屋行け! 俺ら暑いんだから!」
「美しく残酷にこの地から去ね!」
「お前がな厨二病!」

 もごもご毛布の下で、変なお経やら呪文やらが聞こえてくる。やだ怖い。
 ふう、とアフロディが溜め息をついて立ち上がった。チャンスゥの腕に絡みつきながら、うふふと笑う。

「暑いなら仕方ないよね。僕たちもスーパーでも行って涼んでくる」
「俺は!?」
「君は涼野くんのお守りだよ。今僕たち以外誰もいないし」
「まあ後は頼みましたよ。お土産買ってきますし」

 チャンスゥも満更でなさそうな顔しやがって。帰ってきたらそのマリモをもふもふしてやる。

「こんの薄情者どもがぁ!」



 かちこち時計の音が虚しい。
 風介は寝てて、俺は暑い中でろんとしていて。あ、板の間冷たい。今はこの板の間が唯一の救いだよな。
 でも、皆ずるい。皆遊びに行きやがってクソ。

「馬鹿風介」

 お前のせいだぞ。毛布から覗く額にでこぴんしてやろうとしたら、目がぱちっと開いた。

「馬鹿という奴が馬鹿だ」
「小学生みたいな事を……」
「ガキだからね」

 寝返りを打ちつつ、風介は舌足らずな声で言った。声も引きつってるな。水を入れてやらないと。

「ガキねぇ……。じゃあガキは聞き分けよく部屋に戻んな」

 コップに冷蔵庫から出した水を注いでやり、風介に手渡す。ゆっくり起き上がった風介は水をちょっとずつ含みながら、首を振った。俺は頭に手を当てた。聞き分けのない子供だなあもう。

「嫌だよ」
「何で」
「わたしはガキだから、一人じゃ何もできない」

 空になったコップを渡されて、もう一回飲むかと尋ねると、いらないと風介は言った。
 膝を抱えながら、毛布に頬を擦りつけて目を閉じる。眠そうな顔なのだが、熱に魘されてしまって中々寝付けないのだろう。

「何、つまり寂しいって事?」

 普段の風介に言ったら、罵られるか可哀想なものを見るような目をされるか、なのだが……風邪っぴきの風介は素直に頷いてくれた。とろんとした目が宙を泳ぐ。

「うん、寂しい」
「だから皆居るリビングにって事?」

 それには答えてくれなかった。
 きゅう、と風介の毛布に隠れた腹が呻く。そういえば、昼は何も食べてなかったっけか。

「晴矢、お腹減った……」
「はいはい。何があるかな」

 情けない声を出す風介の頭を撫でなでしてやり、額にもちゅうっとしてやる。何だろう、男なのにお母さんの気持ちが分かってしまったような……。
 俺は冷蔵庫と食品庫を漁りに入る。風邪っぴきが食べられるものといったらお粥だろうけど、そんな気の利いたものがある筈もなく……。トマトとご飯があったから、それでリゾットでも作ってやろうか。あ、でも待てよ。今アフロディたちはスーパーに居るんだから……。

『はいはい、何ー?』
「今、スーパー?」
『うん、そうだけど』
「じゃあ、お粥買って即効帰ってこいな」
『え、辛辣すぎない?』
「辛辣なのはどっちだっての。風邪っぴき残して」
『お土産選んでたのに』
「お土産、お粥でいいから! 早く帰ってくる事! 風介も寂しがってるから! あ、あとカルピス! カルピスもご所望!」







花月様からのリクエストで「練習試合中に倒れたガゼル」でした。
ガゼル、なのに涼野になってしまった事にはうっかり…。あぎゃぁ。
夏の暑い中、クーラーがんがんにつけてたら風邪なんて、なんて幸せな風邪の引き方なのか…。皆、まあ自業自得と考えているでしょうが何だか可哀相に思っているのだろうな。ガゼルこと涼野は普段つんつんしてクールな分、弱ると一気に甘えたがりになってしまったらいいな。ありがちな夢ですが。でも風邪の時に一人が寂しいと思わない人は居ないのだろうか。そう考えれば、涼野も人の子。当たり前なのでしょうか。相変わらず晴矢は面倒見がいい子です。何だかんだでチームメイトを大切にするお母さんな面があったらパアンします、私が。
色々勝手な事を語ってしまいましたが、花月様リクエスト本当にありがとうございました!もう9月になるというのにかなり暑いですが、お体にお気をつけ下さいませ!それでは、またお会いできたら^^
2010.08.28 初出 

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