「により」未来設定・南涼2つ


閉じた部屋の中で



 いつもパソコンをいじっている風介が珍しく、ノートパソコン前のクッションに座っていない。うろうろと、例えるなら動物園の猿みたいに部屋上を動き回っている。下を見て、足元を気にしているみだいだから、誰がやったのか知らないけれど既にベタになった眼鏡を探して、というシチュエーションなのかと思った。でも顔に眼鏡が装着されている。なんだ、つまんない。でこぼこした苺ポッキーを齧る。
 俺の座るソファの下も覗きこんだりしているが、鍵でも落としたか。いや、風介の事だからUSBメモリ?

「どうしたよ」
「シャーペン見なかったか?」
「見てないぜ」

 新しいポッキーを風介の口に突き出して、食べさせる。端を指で押さえ、歯でプレッツェルを折る間、風介は無言になった。
 お前、シャーペンたって……。もぐもぐする風介は頷きながら、口の中の物を飲み込む。

「あの、紫で細身の」
「まだ持ってたのか」

 中3の時、高校受験のお守りにと300円程度のシャーペンと近くの神社のお守りをあげたのだ。それからもう、4年経ったのに無くさず使っていただなんて。

「昨日はあったんだが、学校でなくしたわけじゃないんだ。昨日使って、朝、無かった」
「じゃあ家だな」

 まず鞄を見て、部屋とリビングを見て……え、もうやった?

「昨日、最後に使ったのいつよ」
「課題をやるために、リビングで」

 リビングでせっせと教科書とノートを広げていた姿を思い出す。その時、眼鏡はかけていなかったな。でも俺の記憶には、眼鏡の風介がこびりついている。はて、何でだろう。

「その課題って、終わった?」

 そう質問すると、珍しく冷たい目で俺を睨みつけてきた。羞恥に染まった、瞳でもあった。

「君があまりにもうるさいから、ベッドでしたんだよ」
「ああ、そうだっけ」

 うんうん、そうだった。じゃあシャーペンは寝室にあるだろうな。

「そしたら、君がまた邪魔したじゃないか! おかげで眼鏡もベタベタになるし、提出もできなかったよバカ晴矢!」

 顔を真っ赤にさせて、風介はベランダの外へ逃げ出した。内鍵でしか締められないから、手で窓を押さえて俺の侵入を防いでいる。可愛いなあ、と思ったが、怒られた理由が分からない。とりあえず、シャーペンを探すために寝室に向かった。


 もみくちゃになったシーツの間から、シャーペンは出てきた。何だ、仕舞い忘れかとシーツを敷き直す時、むわっと青臭い匂いがした。あれ、汚れてる。何で? 
 その刹那、昨日から今日の日付変更線を跨いだ時の事をはっきり思い出した。
 そうだそうだそうだ! そりゃあ風介も怒るわな!
 俺は救出したシャーペンと共に、謝罪の言葉を考え始めた。








俺の携帯はきっと美人



「面白いCMだよなあ」

 フォークに巻きつけたタラコスパを食べながら、テレビを眺めている。隣の風介はもう食べ終わるようで、残らないようにタラコを麺でこそげていた。

「分かったから早く食べてくれ。もう1時だぞ」
「うんー」

 この様子じゃ、食べ終わるのは15分位だな。風介は空になった皿を、台所のシンクに持っていった。水に皿が沈む音がする。

「あのさ、俺の携帯はきっと美人なんだぜ」
「ふうん」
「あんな、白い肌しててな、ぷるんなほっぺでさ。目も真ん丸で、すらっとしてて」
「皿が片付かないだろう」

 むすっとしながら、風介は言う。

「うんまあさ、聞いてよ。青いけどさ赤も似合う。かっこいいけど可愛いんだよ。クールビューティっていうの? でさ、頭良いんだよ。冷たそうなんだけど優しくて、甘えたがりで」

 タラコスパを口に入れて咀嚼。俺はタラコよりカルボナーラが好きだなあ。

「髪がさらつやしてて、雪みたいな色で、目が透き通ってエメラルドみたいなんだよなあ」
「晴矢……」
「俺の自慢なんだぜ」

 こんな美人で可愛くてかっこいい奴、俺には勿体無いくらいなのに、ずっと傍に居てくれる。

「晴矢、……恥ずかしい奴だな」
「うん知ってる」
「晴矢、携帯震えてるぞ」
「はいはい。あ、あとな」
「うん」
「俺より少し料理苦手かなあ。ちょっと味濃くない?」
「私は濃い味が好きなんだよ。それに、初めて作ったんだし仕方ないだろう」





日常の中での話。
ちょうどドコモのCM携帯擬人化シリーズが流されだした時でした。

虚言症
↑「閉じた部屋の中で」をお借りしました

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