緑眼ジェロジア



 祭り好きは皆変わらない。
 人間や妖怪で賑わう博麗神社は、今日は雪見酒をメインという名目で宴を開いていた。もう何度目か分からないけれど、初めて参加した宴会にはあまり良い思い出が無かった。ガゼルと居られなかったし、ほとんど酔っ払いの介抱でくたくたになってしまった。今ではその酔っ払いどもを相手にしなくても構わないと感づいてきたし、いざとなれば自分よりも面倒見の良い者も居るから安心だ。
 最近は純粋に宴会を楽しみつつあった。彼の事を除けば。
 相変わらずガゼルは幻想郷の乙女たちに引っ張りだこだ。何故ガゼルに構うのか、それは今でも分からないが否応なしに不快感をバーンに与えた。ガゼルに嫉妬しているのではない。彼を取り囲む少女たちに対してだ。淡雪の中を歩くガゼルの遠い背中を見つめる。雪の中、白いガゼルは消え入りそうな位同化していた。少女たちはガゼルに話しかけては酒を注いで注いで、飲ませる。どれ位飲んでいるかは知らない。だがまた変に呑まれたら困る。心配と焦燥とどす黒い鉛のような何かが胸に居座る。

「あんたも嫉妬するのね」
「人間だからな」

 隣に座り、猪口を煽るのは、金髪の橋姫だ。嫉妬心を操る力により嫌われた彼女は、他の忌み嫌われた妖怪たちと共に地底に住み着いている。神社の敷地内に沸いた間欠泉の事件をきっかけに、彼女らは地上の者と親交を持ち始めた。地上に招く時もあれば、地底に下りていく時もある。これは良い関係なのか、とバーンは地底の妖怪たちの今までの経緯を思い、甘酒を飲み下す。

「何年物かしら、その嫉妬心」
「ワインじゃないんだ」
「私にとっては同じ事。番いを盗られて悔しいのでしょう」
「そうだな。ずっと前からだ」
「ああ妬ましい」

 彼女は酒を注ぎ足すと、一気に飲み干す。酒には弱いのか尖った耳の端がほんのり赤い。

「仲睦まじい事が妬ましいわ」
「どうも」
「褒めてない」

 ガゼルが戸惑いながら少女たちの言葉に頷いている。あからさまに困っているのに誰も引いていかないのは、面白がっているからだ。
 確信犯か、性悪どもめ。
 それでもバーンは安心できない。性悪といえども、女だ。中にはガゼルを好いていて虎視眈々と自分が新たな番いになろうと狙っているのではないかと考えてしまう。
 妖怪の集まる宴会には里の人間は怖がって参加はしないが、寺子屋の帰りに見た光景も忘れられずにいる。

「嫉妬心が膨らんできてるよ」
「分かるのか」
「当たり前だわ。黒く薄汚れた下賎な臭いがぷんぷんするのよ」
「酷くない?」

 ふんと、水橋パルスィは鼻を鳴らす。そんな彼女を通りがかりの鬼が連れ去って行った。嫌だと喚く彼女は満更でもない顔をしていた。
 少女を追い払ったガゼルがこちらへ逃げ帰ってくる。服を引っ張られて、肩が露わになってしまっている。

「なんで相手したんだよ」
「女だ……無碍にできない」
「そんなんだから、付け込まれるんだ」

 嫉妬の妖のせいか、むくむくとどす黒い感情が口から溢れていく。

「何故怒る」
「当たり前だ。お前、一昨日里で女に絡まれてたろ」
「ちゃんと断った」
「そういう話をしていたんだろ」

 ガゼルは服を直しつつ、バーンの表情を怖々と伺ってくる。翠の瞳が、とろんとしていた。

「……、すまない」
「あん?」
「バーン、嬉しいと思ってもいいか?」

 バーンの手に、冷たい手が重ねられる。

「自意識過剰じゃね?」
「嫉妬してくれたのだな」

 ガゼルは柔らかく微笑んで、バーンの甘酒を奪い取る。白い酒粕の浮かんだ液体と口に含め、それを堪能する顔は官能的にも見えた。

「君は、いつも気付くのが遅い」
「は?」
「私が過去から感じる思いを、味わった気分はどうだ?」

 猪口から垂れる酒粕を舐めて、彼は挑発的に目を細める。

「わざとか」
「にぶちんめ」

 馬鹿にしたように呟く彼が愛しく、バーンはその場でガゼルを押し倒した。すっと黒い心が浄化されていくのを感じる。だが、これもある種の悪しき感情なのだと思った。

「お前の甘酒すら妬ましい」
「本当の性悪はお前か。成敗してやらないと」

 ガゼルを見下ろすだけで、心が晴れていく。支配欲に包まれながら、バーンは彼の首に噛み付いた。






相馬様からのリクエストで「幻想入りでバーンの嫉妬」でした。
最初はハートフルボッコ:フランちゃんの続きで書くつもりでしたが、うまくまとまらなかったので、時間軸を大幅にずらして地霊殿後にしてみました。嫉妬といったらパルスィ。友情出演です。バーンは幻想郷に来て1、2年後に嫉妬が始まるのですが、ガゼルはそのずっと前から。バーンの方が交友範囲が広かった為です。この時のを書くと、バーンの嫉妬じゃなくて、ガゼルの嫉妬かあと、もそもそ。
どうも酒が絡むとエロティックになるのは、お約束みたいです…。幻想郷では何歳から飲酒OKなのか、疑問が浮かんできます。
相馬様、リクエストありがとうございました!宜しければ、受け取って下さいませ。何かありましたら、メールフォームからご意見どうぞ^^

2010.08.05 初出 

back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -