「により」設定・南涼2つ


白紙のノート



「あっ」

気付いた時にはもう遅かった。黒板にチョークで数字を書き出した先生の顔をうかがいつつ、机と鞄の中を素早く確認するも表紙には全て他教科の名前が書かれてしまっていた。第1回目の授業早々、ノートが足りなくなってしまうなんて。晴矢は溜め息をついた。
これは別のノートに書いておいて、新しいノートに写すしかないな。
机から社会のノートを出して、一番後ろのページを開く。シャープペンをノック二回。

「どうした南雲」
「んー、ノート足りなかったから応急処置」

表紙の社会の文字を見せると、隣の涼野はああ、と頷いた。

「ドジだな」
「言ってろよ」

くすくすと笑われて、恥ずかしくなる。しかも好きな人に知られたから余計に。
俺って格好悪い。
頭を抱えたくなったけれど、授業中にそれはできなかった。黒板の字は増えていく。早く書き写さなければ。

「南雲」

涼野が呼びかける。
目の前に青色の新品ノートを差し出されて、晴矢は首を傾けた。苦笑しながら、彼は使え、と口を動かした。

「いいの?」
「一冊余ってたから。良ければ」

青だし、丁度良いだろう?
涼野は半ば押し付け気味に、ノートを晴矢に渡した。
でも、と晴矢が言う前に先生が問題を解くように指示を出す。

「今日は南雲の番だな」
「え、本当だ!」

4月9日。今日は出席番号、9、19、29が当たる。早くしなければ。
ノートを開いて、もう一ページ捲る。新品のノートの白さが眩しい。
式を解いて涼野と答え合わせをして、彼の耳元でありがとう、大好きと囁いた。ノートをくれたお礼のつもりだったが、何だか別の気持ちも入ってしまった感じだ。
口をぱくぱくさせて驚く彼に向かって笑い、晴矢は席を立った。






朝焼けを見た5:34



目が覚める。空は白み始めていた。今は何時だろう。
未だ充電中のランプがつく携帯電話を取ろうとするが、目の奥が痛くなって頭を押さえた。手探りで携帯を取って、脇のサイドボタンを押してサブディスプレイを見る。ぼんやり暗がりの中で浮かぶのは、四つの数字。0、5、1、2。

「5時12分……」

まだ陽が昇らないはずだ。春になったとはいえ、夜明けは遅い。
起床予定時刻は遠い。二度寝をしようと思ったが、体が緊張しすぎている。寝たとしても、またすぐ目が覚めてしまうだろう。

「起きるか」

それに、今日は大切な日だ。腕を頭の上で組んで伸びをし、足も同調させつつストレッチをする。目がしぱしぱするがすぐ治るだろう、無視をする。
布団を跳ね飛ばすと、冷たい空気が肌を刺す。冷えてしまう前に、足にスリッパを引っ掛けてクローゼットから服を取った。素早く着替えて、窓の外を見た。烏の鳴き声が耳に届く。
携帯の受信メールを読み返した。昨夜のやり取りを確認する事で、5時間後起こるであろう、出来事を想像する事ができた。
ああ、鼓動がうるさい。
目の端で、太陽の燃えるような赤がちらついた。まるで彼の髪のようだ。
ふわついた思考を覚ましたのは、遠くで走る電車の音だった。






新学期、新しいノートが足りなくなった南雲。
ノートのお礼に、映画行くことになってデートみたいだとそわそわする涼野。

虚言症
↑お借りしました

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