※楽園の素敵な巫女と普通の魔法使い



空に太陽が昇り始めた。今日も良い天気になりそうだ。
博麗霊夢は、開き続けるのが難しい目を何度も擦った。昨夜はずっと「黒鞠事件」の犯人を確保するまで、空を飛んだり弾幕を出したり。一番大変だったのは確保した後だった。こちらを威嚇してくる自分たちより年下の少年を何とか説き伏せ、気絶したもう一人を神社まで運ぶのに空が白むまでかかった。
隣で太陽をぼんやりと見つめて、全く意味のない声をもらす霧雨魔理沙も随分参っているようだ。

「朝だぜ」
「朝だわ」
「どうするんだ」
「どうしようもないわ」

厄介事の根本はすぐに抹消すべきだ。幻想郷に迷い込んだ少年たちを、神社に着いてすぐ鳥居の外へ放ってやった。
博麗神社は幻想郷の東の端の端にある。そしてそこは、幻想郷と外の世界との境界部分に位置している。つまり、幻想郷と外の世界を行き来できる唯一の場所だ。故に博麗の巫女である、霊夢は外から迷い込む「外来人」を元の世界へ帰すという役目も背負っていた。やり方は実に簡単だ。博麗神社より更に東側の鳥居から外に出せばいい。あとは自然と外の世界に帰れる。今回もそれを行なった。
それなのに、赤と青い子供未だに幻想郷に存在している。鳥居の外を歩いていったのに、やがて戻ってきた。行き止まり、そう言った。

「帰れないのか」
「初めてだわ」
「うん、何だろうな。新しい妖怪?」
「でも人間の気よ。妖気なんて感じなかった」

今、子供たちは神社で寝ている。赤い方は気絶したままだが、青い方はその隣で熟睡中だ。ちゃんと眠れていなかったらしい。それも仕方がない事だろうと思う。彼らが居たのは、妖怪たちの跋扈する夜の道。その中に、力の持たない普通の人間同然の子供。腹を空かせた妖怪たちの良い的だ。どんな恐怖を味わったか、知るわけもないがそれだけは可哀相に思えた。

「全く、どうするんだよ」
「どうするも何も。帰れなきゃ、里行きね。最近は帰りたくないって言う外来人も居るし、そんな人たちに助けて貰えばいいんじゃないかしら」
「役目放棄して良いのかよ」
「帰せないなら仕方ないわ。原因が分かるまで、我慢して貰うしか」

背後から鳥たちのさえずりが聞こえ出す。朝だというのに、眠気がピークだ。これで体内時計が狂ったらどうしてくれる。

「ふーん。まあこれで一件落着だぜ。私は帰ろうかなあ」

魔理沙は箒を出して、それに跨る。ふわりと浮かび上がる彼女に、霊夢は口の端を吊り上げた。

「居眠り運転して落ちないようにね」
「大丈夫だよ。じゃあまたな」

自称幻想郷最高スピードで、魔理沙は西の空へ飛び去っていった。それを見送ってから、霊夢は少年たちを叩き起こしに境内に向かった。
これからどうするべきか、指南しなくてはならない。まず、此処が何処か。少年たちは何という名前なのか。紅魔館への謝罪。里に住処を置く事への薦め。
ああ、面倒臭い。だがこれも博麗の巫女の使命なのだから、仕方がない。






5.やっぱり博麗の巫女









これでラスト。番外、後日談がまだあります。
最後の最後でバンガゼが出てきませんでしたが、黒鞠事件はこれにて終幕。次は紅魔館への謝罪。香霖堂への売り込み。慧音への売り込み。とかしたいです。
もし次、中編?でやるとしたら風神録やりたいです。

2010.04.05 初出

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -