※IQと涼南涼




んだというのだ。


それはある夕食時の事。
テーブルを囲むように座り、真ん中の大皿に盛られる唐揚げに手を伸ばしていた。
夕食の時はテレビ禁止であるのに、リビングのテレビがつけっぱなしであるのに誰かが気付いた。
電源を止めにいったのはサトスであったか。
CMが流れるテレビに昨年から人気が出だし、ドラマやCMと引っ張りだこの少年が映った。
エコカーの説明をする子供独特の舌足らずな声。
サトスがリモコンを手に取った瞬間に、彼は驚きの言葉を口にしたのだ!

『アイキューも減税! 補助金も!』
「!?」

途端にその場の21人がアイキューに視線をやった。
若干それに引きつつもアイキューはやんわりと、違いますからと言った。

それで終わったのなら良かったのかもしれない。
やはり政府の方針でCO2の減少を促す為、エコカーのCMは度々流れ続けた。
流れる度、向けられる視線に減税されないの、と問われ、学校でクラスメイトにさえ指摘された時には泣きそうになった。
ああ、人というのはどうしてこうもあれなのだろうか。
そして今日もテレビの前で待機する仲間たちがCMの言葉の後、期待の眼差しでアイキューを見た。
何を期待しているというのだ。
だから……、

「減税されないから!」






いうっかり大惨事。


車のエンジン音とタイヤが弾む小刻みな振動。
テレビから流れるニュースアナウンサーの声。
それらが気持ち良いほどに混ざり合い、晴矢の中に潜む睡魔が目覚めだす。
うつらうつらと冷えたガラス窓に頭を押し付けながら、目は開閉を繰り返す。眠気は一向に去っていかない。
車内で眠ってしまうと、瞳子姉さんが困るのだ。それに明日だって部活がある。
中途半端な時間に寝てしまった悔しさや戻せぬ時の喪失感。
晴矢はそういうものが嫌いであった。だから必死で眠気に抗おうという理性が残っていた。
隣に座る風介が眠いのか、と問う。
かぶりを振ったのであるが、それは自分の妄想の中だけであったようだ。
答えないまままどろむ晴矢に、瞳子は寝ても良いのよ、と囁いた。
首を振る。それは叶わない。
段々と意識が落ちていく。睡魔が自分に成り代わろうと体を占領しだす。
拒絶しようと思っても甘美な心地に飲み込まれ、そして……。



ブラウンのセダンは今日も無事に車庫に収まった。
ヒロトが最初に降りて、荷物を持ち家の中へ運んだ。
それを見届けて、瞳子は眠りに落ちた晴矢へ振り返る。安らかな呼吸をする彼を起こすのはあまりにも可哀相だった。
どうしようかと頭を悩ませると、シートベルトを外した風介が晴矢を運ぶと言い出した。

「大丈夫なの?」
「平気。こいつ結構軽いから。姉さんは夕飯の支度をしなくてはいけないのでしょう。わたしはお腹が減りました」

とてもそう見えない表情で風介は言い切る。
瞳子は彼が案外頑固であるのは知っていたので素直に甘える事にした。

「運んだら鍵を閉めてちょうだいね、分かる?」

抜いた鍵につく四角い操作パネルを見せる。
右上のロックボタンを示せば、風介は頷いて鍵を胸のポケットにしまった。
瞳子は二人を残し、車から出た。
エンジンは切られて何も言わなくなり、車内が冷えていくのを感じる。
風介は窓にもたれて眠る晴矢を一瞥した。
間抜けな顔だと思った。
そして彼の肌に触れる無機質なガラスが妬ましい。
胸を叩き続ける心臓が痛いが、こういう時でないと風介は駄目であった。
眠る晴矢へ顔を近づけ、そして起きているか聞いた。
反応なし。平気だ。
風介はガラスにへばりつく冷たくなった頬を手で包み、こちらを向かせた。
無垢なる表情、それを見て苦しくなった。
自分がしている行為は彼を汚す事に繋がるのではないか。
すっと、息を吸う。わずかに開いた唇へ、キスを落とした。
触れるだけ、それだけでも打ち付けられるの胸の痛みが止まない。
そっと離して、充足感に満たされる。
心臓の鼓動が耳にまで響いてくる。それが止むまでかなりの時間を要した。
治まった心音を確認してから風介は晴矢を車から引きずりだし、背中に背負った。
扉を閉めて、晴矢を背負いなおした時胸ポケットから鍵が落ちた。
それを拾おうとして、腰を曲げれば晴矢の体を釣られてずりずりと滑り、綺麗な一本背負いが決まった。


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