赤と青の番いと七色の人形遣い 最近、治安が乱れているらしい。それは近年の幻想郷の傾向から見るととても変な事だ。人間と妖怪の力の格差を無くす為にスペルカードルール制度の締結以降、人間も捕食される事もなく妖怪も強さを誇れる。人間・妖怪が対等に勝負をする事ができる制度だ。それからというもの、異変という異変もスペルカードルールで穏便に解決しているようだ。それなのに治安が乱れるというのはやはりおかしい。 アリス・マーガトロイドは人間の里からの帰りで、魔法の森の道を歩いていた。自分の家まではもう少しであるのだが、一度足を止めて人形を取り出した。動きがぎこちない人形が一体あり、それが心配だったのだ。大きめの動きから、細かい動きをしてみるのだが問題は無さそうだ。指をつい、と動かして人形を引き寄せれば容易く自分の方へ移動してくる。躍らせようと思えば簡単な踊りを見せてくれる。動きがぎこちなかったのは自分の力不足だったのだろう。 アリスは人形を幾度か動かした後、肩を震わせた。 「何か殺気を感じたんだけど、気のせい……」 か、と言い切る前に自分の横を質量のある物が横切っていった。それは黒い物であった。 息を飲む。 飛んできた方向へ目を向けると、そこには赤色と青色をした子供二人が立っている。気配からいくと、人間らしい。何故人間が自分に攻撃をしてくるのだろうか。命知らずである。もしかしたら、とっくのとうに廃れた魔女狩りの残党かもしれない。 「何か用かしら?」 「勝負を申し込みたい」 「あら、やり方は乱暴なのに……案外紳士的ね。それとも、片方が野蛮人なのかしら」 青い子供は赤い方に微笑みかけた。アリスの言った事は正解だったらしい。赤い方は足で転がしている鞠を蹴り上げた。 「そういう事だから、痛くても恨むなよ」 「じゃあ、そっちも痛くても恨まないでね」 アリスは二体の人形を追加して、糸を引いた。先にあちら側から鞠が放たれた。人形が防護壁を張り、それを跳ね返すと舌打ちが返ってくる。力が強く、防護壁が少し押された。だが、これは弾幕の質量ではない。 「おかしいわね……」 再び鞠が迫ってくる。それも跳ね返して、人形が弾を放ってやると予想通り避けられた。アリスは地を蹴りバックステップを踏みながら、人形をいくつか放り投げる。数回バウンドしたそれはやがて、障害物に当たり爆発した。相手側が冷や汗を垂らしているのが見える。 「火薬は少な目よ」 「危ないな……」 「貴方たちもね」 黒いそれが空へ跳ね上がる。はっとして見上げれば、赤い子供が炎をまとった鞠を蹴り落としてきた。アリスは人形をその子供の傍へ設置する。糸を伸ばしながら、飛来してくる球の落下予想地から離れて飛び上がった。スカートが風を含んで舞い上がる。 「遅い」 低い声が気付けば、近くにあった。反射的に体を腕で守れば、防いだ腹の上に衝撃がある。 キックが強い。スピードも速い。大人しそうだからと油断していたかもしれない。だが、赤い子供は今がら空きだ。 「人形振起」 無防備な彼に、刃を持ち回転した人形が襲う。襲う、という表現よりも回転をし始めた人形に彼が自分から落ちてきたという方が正しい。赤い子供の体が投げ出される。防がれるかと思ったが、期待外れであった。 「あいたあああっ!」 「油断しすぎだ、馬鹿」 そう言いつつも、青い子供の周囲が光りだす。その光というのは、太陽を受けて煌めく粒であった。それは湖にいる氷精の冷気と同じものを放っている。 「怒っているわね」 「何?」 「大切な人かしら、彼」 「そんなんじゃない」 青が否定すれば、後ろで吹っ飛ばされた赤が素直じゃない、と文句を言うのが聞こえる。中々面白いコンビだ。 「そう」 アリスは呟いて、足を踏み込んだ。一瞬反応の遅れた彼の懐へ入り込んで、スペルカードを一枚取り出す。赤い子供が、青い子供の名前と思われるものを叫ぶ。 「大丈夫、少し痛いだけよ」 「……っ」 できるだけ優しく言ってやると、青い目が見開かれて呼吸を止める。相手が体を防ごうと腰を捩ったと同時に、アリスはスペルの宣言をした。 「魔符『アーティフルサクリファイス』――」 七色の閃光が人形を中心に広がる。相手にダメージを与えた手応えがあった。 光が収束した頃には、跡形もなく子供の気配は消えていて退散が早いな、と呆れつつも人形を手繰り寄せて埃を払ってやる。動きがぎこちなかったのは気のせいだったみたいだ。ちゃんと動いていた。 それだけでアリスにとって、もう奇妙で対照的な子供の事はどうでもよくなっていた。 2.その間、約六分 弾幕勝負、というより弾幕アクション。 アクション系の描写っていうのはやっぱり難しいですねえ…。人形振起は緋想天の必殺技だっけ…。 アリスは東方キャラで上位のお気に入りキャラ。上位といっても、皆上位なんですけど…。でも緋想天だとアリスってちょっと使いにくい。私はゆかりん派。 ぼっこぼこにされた二人ですが、まだまだふるもっこにされる道を行きます。打たれ強い二人! カオス作っちゃうくらいだから! 2010.02.22 初出 ←back |