赤と青の番いとちょびっと夜雀の怪



此処は二人の見知った富士山の麓ではなかった。樹海よりも密度の薄い木々に開け放たれた道。変な匂いが混じった空気。目を開けて最初に見えたのは、満天の星空だった。それだけは富士の空と変わらなかったと思う。
バーンとガゼルはそっと体を起こした。足元に転がる黒いサッカーボールを手に取り、体を寄せてサッカーボールの移動機能で現在の座標を確認したがエラーが出るだけで現在位置が何処なのか分からない。
鳥の声がする。
何故かこの暗い道の先から歌声が聞こえてくる。
木々がざわつく。二人は体をいっそう寄せ合った。

「何があったか知ってるか」
「知らない。此処何処か知ってる?」
「知るわけがない」

歌声が大きくなる。幻聴かと、互いに確認する。だが歌声は止まない。音のする方へ顔を向けた。視界が狭まる。黒い闇が目の前を襲う……。

「貴方たちは食べられちゃうのよ」



その夜の後、二人はサッカーボールを一時も手放せなくなり、二人で体を寄せ合いながら行動を共にした。もし闇の源へボールを放たなければ、どうなっていたか分からない。声の言う通り、食べられていたのかもしれない。
最初は歩き回るのは昼だけにして、夜は見張りを交代しながら朝まで明かした。しかし三度の夜の内、暗がりの中から奇襲をかけられた事が何度かあった。どうも此処は治安が悪いようだ。そうでなくても、殺伐とした雰囲気の中バーンとガゼルの精神も苛まれていった。二日目から満足に眠れないので、昼に眠るようにした。眠れなくなった夜に行動をするようになった。移動をしなければ、この鬱蒼とした森から抜け出す事はできない。
バーンは陽の沈みつつある空を眺めた。夜がくれば、四度目の恐怖を味わう。横で眠り続けるガゼルをそろそろ起こさなければ。だが起こすのも気が引けた。元々眠れない性質であるガゼルも、ダウンしているのを考えるとさすがに可哀相である。
ボールを足で突き、遊ぶ。
今思うとこの世界は、エイリア学園と全く同じシステムで動いているのではないか。自然界でもそうであるが、やはり強者が弱者を捕食するという事は生き残る為には力が必要なのだ。「食べられちゃう」……声が言ったのは、その「死ぬ」という事の暗喩なのかもしれない。

「夜か」
「あ、うん」

剥き出しの肩をさすり、ガゼルが起き上がる。眠りが浅かったのだろうか、目は綺麗に開かれていた。

「いつになったら、この森から出られると思う?」
「もしかしたら、密度は薄いが……木々に埋め尽くされているのかもな。森という言葉も通用しない位の」

遠くから鳥の声が聞こえる。それは不気味なものではなく、哀愁を漂わせる鴉の鳴き声だ。そっとガゼルの体を抱き寄せた。相手は少し嫌そうな顔をしただけで何も文句は言わなかった。疲れで相当参っているようだ。バーンもそうであるが。

「俺、思った」
「何を」
「此処は弱肉強食の世界で成り立っている。という事は、ジェネシス計画と同じ方針なわけだろ。此処が何処かは分からないけれど……、邪魔は入らない」
「何が言いたいんだ」

ガゼルは髪をくしゃりとした。

「此処で、ネオ・ジェネシス計画を発動しよう」
「そんな物にまだこだわっていたのか」
「そんな物って」
「だが、忘れられないわたしもわたしだな」

バーンの頬を軽く叩いて、ガゼルは立ち上がった。西と思われる方角へ橙色の空が落ちていき、紫が混じり出す。

「まだ、諦めなくてもいいのなら」
「いいんだよ。俺たちが勝手にやるんだから」

諦めるとか無いのだ。自分にその志があるのなら。
ああ、夜が降りてくる。









1.THE EVENING STAR











夜が降りてくる〜the evening star、そのまんま。
魔法の森で倒れていた二人なのですが、散歩中の夜雀の標的に。夜雀はボールで撃退されますがしばらく起き上がれなかったそうな。ごめんな、みすちー…。
そして相変わらずジェネシス計画に執着する二人。さすが若者です。

2010.02.21 初出





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