※若泉×中谷




「中谷、勝負しようぜ!」

若泉が教室に飛び込んできたと思ったら、そんな事を言われた。頭に疑問符を浮かべ、首を傾げれば若泉は指を立てて、バレンタインだよ、と壁にかかるカレンダーに視線を向けた。そういえば明後日はバレンタインデーであったか。

「チョコの多い方が勝ちだ!」
「でもバレンタインは日曜……」
「部活はある! 他の部活の子から貰えるかもしんないだろ!」

何ともくだらない事である。中谷は断る為に手を上げたが、ふと思い直してそれを止めた。どうも自分は若泉を拒絶する行為ができないのだ。まあ暇つぶし程度にはなるだろうから、中谷はいいよと頷いて了承した。

「やった!」
「何でそんな事思いつくんだか」
「若いからさ!」



そして二日後。決戦の日曜がやってきた。といっても、決戦なんて派手なものではない。
澄み切った冷風の中、紅白戦を午前までおこなった後、中谷が部室に戻ろうとすると、脇から文化系の部員と思しき女の子が飛び出してきた。驚く中谷の名前が呼ばれる。彼女は確かな口調で中谷くんと叫ぶと、これどうぞ! なんて可愛らしい声でそれを差し出してきた。赤い包装紙に包まれた某ブランドのチョコレートである。それをぎこちなく受け取り、礼を言えば彼女は満面の笑みを浮かべて、頑張ってねと去っていった。1分にも満たないかもしれない出来事に中谷は目を瞬かせた。手には四角い箱。夢ではなかったようである。
これが昼飯時の事であった。部活の終わった時点で、中谷の手元には4個のチョコレートがある。サッカー部外から貰った数がそれで、他に女子部員とマネージャーから貰ったのもある。それを抜きに勝敗をつけると若泉は言っていた。鞄に綺麗に収まるそれらを見て、中谷は少し嬉しくなった。人からプレゼントを貰えるのはやはり人として嬉しいものである。
制服に着替え終わった若泉がちょこちょことこちらに近づいてきて、バッグの中を覗き込んだ。

「いくつ?」
「4個」

簡潔にそう言うと、何の反応も返ってこなかった。不思議に思って後ろを振り返れば、どんよりと肩を落とし落ち込む彼が居た。そこだけ湿度が高い。近くにいた少林寺がびっくりしている。耳を澄ませると若泉はあと2つ、と呪いの言葉のように繰り返している。この事から、若泉は3個と推測された。



「なあ、元気出せってば」
「言いだしっぺが負けるって、どうよ……おい。情けねえ」

まだ恨み言を言う彼に、溜め息を吐いた。
さっきからずっとこれである。たまたま、本当にたまたまなのだが帰る方向が一緒な二人は歩道をゆったりと歩く。子供たちがバレンタインではしゃぐ声が聞こえ、更に若泉は気を落とす。もうこれはどうにもならないか、と諦めかけているとコンビニが見えた。中谷は彼に断りをいれてコンビニに入る。やはりメインスペースにチョコレートが積まれていた。それを無視し、中谷は2つ商品を取って会計を済ませる。外でぽつりと寂しそうにする若泉にすぐ駆け寄ると、たった今買った物を彼に突き出した。

「ほら、2個」

ビニール袋に入っているのは、板チョコとポッキーである。チョコならなんでもいいだろう、と鼻を鳴らす彼に、若泉は涙を流しながらそれを受け取り、抱き締めた。

「あー嬉しい、中谷。女子に貰うよりいいわあ……。愛してる中谷」

冗談半分に言っているつもりだろう。目が笑っている。それなのに、中谷はうっかり信じ込みそうになった。そして気付けば、頬は赤くなっていた。
マフラーに顔を埋めて、小さく馬鹿と呟く。

「何、本気にしちゃった」
「うるさいな」
「へへぇー、中谷にチョコ貰っちゃったあ。なあ、中谷! これでポッキーゲームやらないか!」
「や、やらない! 何言ってんだよ!」








方こそ悪い林檎











バレンタインって何それおいしいの? しかも中谷チョコ貰って妬ましい。
ちなみに中谷のチョコはサクラの子から貰ったもの。若泉が中谷の愛を試す為に頼んだよ。という裏設定。ろくでなし!
サクラでもいいからチョコくれ!

2010.02.07 初出

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