俺ブン? 登場人物は中谷、ガゼル、若泉、秋ちゃん、円堂、ヒート(名前だけ) 自分の横を通り過ぎたのが探していた人物だと思っていた中谷真之は、振り返って相手に呼び掛けた。 あ、と声が洩れる。 まずい。 彼じゃない。 呼ばれた人物は振り返らないまま、その場に立ち止まる。 顔は見えずとも、肩を震わせているので相手が怒りの感情で支配されている事がいやでも分かった。 これで何回目だろう。 中谷もできるだけ気をつけていたが、今のように油断をしていると間違えてしまうのだ。 ヒート、と彼に声をかけられた人物の周りにはきらきらとした鋭い細氷が舞っていた。 「また間違えたのか」 「気が緩んで……気をつけていたのに」 中谷の顔や足には傷ができていた。 そこへ秋が消毒液を浸した脱脂綿で血を拭う。 今日もヒートと間違えられたガゼルこと涼野風介の前から急いで逃げ去る途中、中谷はど派手にすっ転んだらしい。 目立つ傷はといえば、腕の擦り傷だけであとは運良く大した事がないものばかりだ。 転んだ時の様子はとにかく漫画みたいですごかった、と現場に居合わせたまとろは言う。 消毒が終わったと秋は救急箱を片付けだす。 続けて、消毒だけで済んで良かったと彼女は呟いた。 「中谷くんも気をつけてよね。足なんて怪我しちゃったら大変なんだから」 「以後、気をつけます」 強めの口調で言われたためか、中谷は身体を小さくしながら反省の言葉を述べる。 「まあまあ」 彼の治療を見守っていた若泉が彼の背中を励ましながら叩いた。 「俺も前に間違えてぼろっぼろにされたし。お前はでかい怪我しなくて良かったよ」 「ありがとう」 戸惑いながらも、二人は笑顔を交わした。 微笑ましい光景であるが、彼らがヒートとガゼルを間違えてしまうという事は大きな問題かもしれない。 「でも皆が間違えないようにする方法ってないのかな」 口元に指を当て、秋は首を傾げる。 男二人も腕を組んだり、頭に手をやり、と考える時の定番ポーズをとった。 この出来事が起こるようになったのはヒートがプロミネンスから引き抜かれてきてからだ。 先に引き抜かれていたガゼルとは全く正反対で、世話好きでお人好しの好青年タイプ。 性格では間違える筈がないものの、彼らは容姿が少し似ていたのだ。 髪がふわふわしているのは互いにそうだし、青い目も一緒。身長もそんなに変わらない。 注意してよく見ればどちらだか認識できるが、すれ違いざまなど間違いを犯すシチュエーションナンバーワンだ。 反射的に声をかけると、違う場合が多い。 ヒートなら笑って許してくれるが、その日何回も間違えられて不機嫌になったガゼルにぶち当たったのならば、凍てつく闇の冷たさを教えられる。 今日の中谷のように逃げ切れる者もいるし、若泉のように八つ当たりの果てに完膚なきまでに叩き潰された者もいる。 どうしたものかと三人が唸っていると、円堂がひょっこりと部室へ現れた。 中谷の事を聞いて探していたらしい。 「大丈夫か、中谷」 「平気、擦り傷だけだったから」 消毒だけで済んだ事も言うと、円堂はほっと肩を撫で下ろす。 彼は腰に手を当てて中谷が怪我をした理由を問うと、急に若泉が叫んだ。 「そういえばキャプテンはガゼルとヒートの事間違えないよな! なんで!?」 身体を乗り出してきた若泉に、円堂は混乱しながら秋に視線を向けた。 苦笑しながら、彼女は先程までの出来事を説明してやると簡単さ! と我らがキャプテンは声高らかに言った。 「何なに! ポイントとかあるの!?」 「髪の色だよ」 「髪?」 3人が間抜けな声を上げると、円堂は太陽のように晴れやかに笑いながら頷く。 「そう。ヒートがバニラアイスで、ガゼルがラムネなんだ」 脳内でヒートの顔と、バニラアイスの絵とがイコールで結ばれる。 それとは別にガゼルの顔の横には駄菓子のラムネが浮かびだす。 お菓子? と疑問符が頭に浮かぶと、 「色がそっくりだろ!」 「なるほど!」 円堂の宣言に3人は同時に納得した。 これからは髪の色をよく見ていれば間違えない! 仲間たちの伝えに行くべきだ! 若泉はそのまま部室を飛び出し、その一番近くに居た瓜生に話しかけた。 何事かと驚く瓜生を遠目で見ながら、中谷はほっと息をつく。 「今度は間違えないようにしなくちゃ」 「ていうか、そんなにすごいのか涼野?」 「とにかくすごい。憎しみで人を殺せたら、っていうオーラを出してくるよ」 自分の横を通り過ぎるふわふわした髪。 髪の色を見て、どちらか注意深く判断をしてから中谷は声を出した。 甘そうなバニラ色。柔らかいゴールド。 「ヒート、明日の練習の事なんだけど!」 はた、と相手が止まる。 今度は間違えなかったぞ! 少し得意げになりながら、相手が振り向くのを待つ。 きらきらと、空気が光り輝く。 気温も少し下がっているようだ。 さっきまで暖かかったはずなのに。 相手がこちらを向いた。 顔を伏せて、腕を組んでいるのは……冷えた瞳を向けるガゼルであった。 「え?」 確かに見えたのはあのバニラアイスの色だったのに。 おかしい。 よく観察すれば、ちょうど彼が立つ場所に綺麗な陽が差しているのが見えた。 夕暮れへと近づく橙の光を受ける水色がかる銀色の髪は、金色の髪へと変化していた。 謝罪する前に、彼の周り――特に足の周りにだ――目に見える程の冷気が集まりだす。 「ノーザンインパクト!」 それを叫ばれたと思った時にはもう遅かった。 中谷の目の前は真っ白になった! #FFA500を乗算したので 「キャプテンに教えてもらったようにしたのに。どうしてだろう、バレン」 「あのさ、なんでガゼル様の袖を見ないんだ? いつも捲くっていらっしゃるじゃないか」 あ。 クリスマス前に仕上がっていたけれど、出すタイミングを見失った俺ブン? 中谷くん好きです、切実にだましてみたい。 侵略者編終了時にこういう雷門があったら、俺は本望だ。皆キャッキャッウフフしていればいいよ! ガゼルとヒートがカオスで一緒に登場した時に、結構どっちがどっちだかわからないという発言が多かったのでこういう話になりました。実際ヒートくんがガゼル様に見えたことも度々ありました…。 ちなみに#FFA500ってこんな色 2010.01.23 初出 ←back |