※「マイナスK」の続き




熱と冷気が混ざり合う。
前者の熱が下がっていくのを感じると同時に、冷気の温度も段々と上昇していく。
互いの変化に視線を交わらせたまま歩み寄っていくと、変化は緩やかに止まる。
目と鼻の先に居る相手へ笑いかけた。
手を差し伸べれば、ゆっくり指が合わせられる。
指を絡めて身体を寄せると、安寧が二人を包んだ。
これが本来あるべき自分達。
どちらかが欠けては生きていけないという依存関係を、改めて確認する。

「寂しかった?」

紅蓮の炎が凍てつく闇に問い掛ける。
首を横に振り、落ち着きながらも優しげな答えが返ってくると、舌打ちを鳴らした。

「可愛げがねえの」

そう言いつつも嬉しそうな彼に、ガゼルは再び柔らかい声音で質問をしてみた。

「そういうお前は」
「熱かった」
「わたしは寒かった」

互いに出た言葉に、二人は目を合わせて笑い合う。
身体を抱き寄せる手に力がこもる。
それは無意識であったが、きっと本能と似たものなのだろう。

「君にも熱いという感覚があるんだな」
「お前もな。こんなに寒そうな格好しているからいけねえんじゃねえの?」

たくし上げられた袖を指摘してやると、お返しに長い袖がいけないと言い放たれる。
くだらない言い合いだがそれがまた楽しくて嬉しくて仕方ない。

「ふふ、またこうしていられるとはな」
「まったくだぜ。そういえば、お前スカウトこなかったの」

疑問をぶつけてみれば、呆然とされた。
何か変な事言った? と首を傾げてみると、胸に顔を埋められて吹き出された。

「蹴散らしてやったさ」
「そっか」
「羨ましいか。わたしの力をまだ必要とする者が居るんだ」
「別に」

そして答えに安堵する。
バーンはガゼルの背中を撫でてやりながらふわふわとする髪に鼻先を埋めた。
いつもならそういう行為を拒否する筈のガゼルはされるがままになり、腰に腕さえ回してくる。

「良かった、会えて」
「そうだな」

素直に頷いてやると、髪に息が断続的に当たる。
どうやら忍び笑いをされているようで、下から顔を覗き込む。

「なんか素直」
「今日だけだ」
「今日だけじゃなくてもいいじゃん」

両手が顔を包み引き上げられ、ぐっと二人の距離が縮まる。

「もっと見せろよ」

息をつく暇もなく告げられた言葉に、少し胸を跳ねさせながらガゼルは頬から手を引き剥がす。
それで不機嫌そうに頬を微かに膨らませたバーンを撫でてやった。

「君次第だよ」
「お前なー」
「努力したまえ」

不貞腐れてしまった彼が可愛く見える。
ガゼルは今日の自分がおかしいと感じながら、素直に笑ってみせた。

「ふふ」
「なんだよ」
「嬉しい、君と居られて」

この言葉に目を細められ、

「俺も」

心底そう思っている、というようにバーンはガゼルを力いっぱい抱きしめた。
満更でもない、とガゼルが感じていると彼はそれに便乗してくる。

「なあ」
「うん?」
「ちゅーしよう」

少し驚いたが、たまには良いかとガゼルは深く頷いた。

「そうだな」

目線を合わせると、心臓が高鳴る程の真剣な眼差しでこちらを射抜く金色の瞳。
バーンから見れば、そこには誘うように潤んで恥らう青の瞳があった。
いつまで経っても閉じようとしない無粋な目を、バーンは掌で隠す。
急に暗くなった視界に慌てるガゼルにキスをしてやると、やがて大人しくなっていた。
手を退けると、目蓋が落ちて瞳を掌の代わりに隠していた。
無言のまま稚拙な口付けを交わしていく。
熱が混ざり合う感覚が互いが互いを必要とする証のようで、飴玉を舐めるみたいに唇に貪る事に夢中になる。
唇を離した頃も、二人はうっとりと口付けの甘い余韻を味わった。




「何?」
「やっぱお前可愛いな」
「今頃気付いたか」
「おー。あのさ」
「ん」
「ずっと一緒にいよう」
「わかってる」
「お互い、一緒の所に暮らして。毎日一緒にいよう」
「何処に住むんだ?」
「うちは狭いな。お前のトコは?」
「空いてる」
「じゃあ決まり。愛してるガゼル」
「言うなら真剣に言ってもらいたいものだな」
「悪い悪い。好きだ、ガゼル」
「わたしもだ。そっちの方がお前らしい言葉でいいぞ」
「どうも」








ールドインフェルノ










やっと会えた二人は後にカオスになります。
カオスになる前は互いにどこをほっつき歩いているのか、そわそわしながら樹海を練り歩いていると思う。
で、「凍てつく闇に負けた時の話」にてDダストが住み着いている北海道の廃屋で皆住むよという終わり方。
カオスになった後は雷門に引き抜かれるんでしょうね、はい。

タイトル「東方風神録」より
2010.01.04

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